Anthropicの高性能AIモデル「Claude Mythos」が、アメリカ政府の機密ネットワークを対象とした正式なセキュリティテストに参加し、複数の脆弱性をわずか数時間で発見していたことが明らかになりました。今回の調査は、第三者による不正侵入ではなく、政府の許可を受けた閉鎖環境で実施された防御目的の検証です。対象システムが実際に攻撃者へ侵害された事実は確認されておらず、AIが問題を発見した後は、関係機関が修正対応を進めたとされています。

🔍 米政府の機密システムを数時間で調査 何が起きたのか?
AP通信の取材に応じた匿名の米政府関係者によると、Claude Mythosは機密指定された複数のコンピューターシステムを検査し、従来の調査で見逃されていた脆弱性を短時間で発見しました。ただし、具体的な政府機関名、対象ソフトウェア、脆弱性の種類、深刻度などは安全保障上の理由から公表されていません。また、脆弱性を見つけることと、実際に侵入して権限を奪うことは別の段階であり、関係者も「発見できたからといって、ただちに悪用できたとは限らない」と説明しています。
今回の検証は、Anthropicが2026年に開始したサイバー防御プロジェクト「Project Glasswing」の一環とされています。Glasswingは、AIの攻撃能力が犯罪者や敵対国へ広く普及する前に、重要インフラや主要ソフトウェアの欠陥を先回りして発見し、修正することを目的とした取り組みです。Anthropicによると、Mythos Previewは政府システム以外にも、主要なOSやウェブブラウザを含む多数のソフトウェアから、深刻度の高い脆弱性を発見しています。
🤖 Claude Mythosはなぜ脆弱性を見つけられるのか?
従来の脆弱性診断では、人間の専門家がソースコードを読み、ネットワークを調査し、入力値を変えながら異常動作を探します。Claude Mythosは、こうした作業の一部をAIエージェントとして反復し、膨大なコードや通信記録の中から不自然な処理を抽出できます。単に既知の脆弱性パターンを検索するだけでなく、システム構成を理解し、複数の問題を組み合わせた攻撃経路を検討できる点が注目されています。

📌 Claude Mythosが担えるとされる主な作業
- 🔎 ソースコードからメモリ破損や認証不備を探す
- 🌐 ネットワーク上のサービスや公開ポートを調査する
- 🧪 異常な入力を試し、システムの反応を比較する
- 🔗 複数の小さな欠陥を組み合わせた侵入経路を検討する
- 📝 発見した問題の再現手順や修正案を整理する
- 🔄 修正後のシステムを再検査する
一方で、AIが出力した脆弱性候補には誤検知が含まれる可能性があります。最終的には人間のセキュリティ専門家が、問題を再現できるか、実害につながるか、修正による副作用がないかを確認する必要があります。AIは専門家を完全に置き換えるのではなく、調査範囲を広げ、見落としを減らすための強力な補助役と考える方が現実的です。

🩸 約30年間見逃された「Squidbleed」も発見
Claude Mythosの脆弱性発見能力を示す別の事例として、プロキシサーバーソフトウェア「Squid」で見つかった情報漏えい問題「Squidbleed」があります。報道によると、この問題は古いバージョンから長期間存在し、特定の条件下でプロセス内部のメモリ情報が外部へ漏れる可能性がありました。Squidが暗号化されていないHTTP通信を処理している場合や、TLS通信を終端して内容を検査する構成で影響を受ける可能性があるとされています。
この事例は、AIが最新のソフトウェアだけでなく、長年使われ続けている基盤ソフトウェアの奥深くに残った欠陥を発見できる可能性を示しています。古いコードは何度も監査されているため安全に見えますが、複雑な条件でしか発生しない問題や、当時は危険性が理解されていなかった処理が残っていることがあります。重要インフラでは数十年前のソフトウェアが現在も使われているため、AIによる再監査には大きな価値があります。
⚠️ 防御に役立つ一方、攻撃者に渡れば強力な武器になる
Claude Mythosの能力は、政府や企業の防御力を高める一方で、同じ技術が攻撃者に利用される危険性もあります。AIがソフトウェアを自動調査し、脆弱性候補を発見できるようになれば、高度な専門知識を持たない犯罪者でも攻撃準備を高速化できる可能性があります。このため、AnthropicはClaude Mythos 5を一般公開せず、Project Glasswingへ参加する政府機関、重要インフラ事業者、セキュリティ企業など、審査を通過した組織へ限定的に提供しています。
🛡️ 高性能なサイバーAIに求められる主な安全策
- 利用組織と担当者の厳格な本人確認
- テスト対象についての明確な許可証明
- 外部インターネットへの接続制限
- AIが実行したコマンドや通信の完全な記録
- 危険な操作に対する人間の事前承認
- 発見した脆弱性を安全に報告する開示手順
- 異常動作を検知した際の緊急停止機能
特に重要なのは、AIへ与える権限と実行環境の管理です。2026年7月には、Anthropicのサイバー評価環境の設定ミスによって、複数のAIモデルが実在する企業のシステムへ意図せずアクセスしていたことも明らかになりました。高度なAIモデルだけでなく、それを囲うサンドボックス、ネットワーク設定、認証情報の管理まで含めて安全性を設計しなければならないことを示す事例です。
📝 まとめ
Claude Mythosが米政府の機密システムから脆弱性を数時間で発見したとされる事例は、AIがサイバー防御の速度と調査範囲を大きく変える可能性を示しています。人間では長期間を要するコード監査やネットワーク調査をAIが支援すれば、攻撃者に悪用される前に欠陥を修正できる可能性が高まります。
一方で、公開されている情報は限定的であり、発見された脆弱性の深刻度や、実際に侵入まで可能だったかは確認されていません。AIが脆弱性を見つける能力と、安全に運用できる能力は別問題です。今後は高性能モデルの開発競争だけでなく、利用者の審査、権限制御、監査ログ、責任ある脆弱性開示を含む運用体制が、国家安全保障を左右する重要な課題となるでしょう。
📚 参考・出典
- AP通信「Anthropic’s Mythos model found vulnerabilities in classified US government systems, official says」
米政府関係者の証言、正式なテストだったこと、脆弱性の詳細が非公開であることを報道。 - Reuters「Anthropic’s Mythos model found vulnerabilities in classified US government systems」
AP通信の報道を基に、機密システムから脆弱性が発見された経緯を整理。 - Anthropic「Project Glasswing: Securing critical software for the AI era」
Project Glasswingの目的と、主要OS・ブラウザを含むソフトウェアから多数の脆弱性を発見したとする公式説明。 - Anthropic「Claude Fable 5 and Claude Mythos 5」
Claude Mythos 5の位置付け、提供範囲、サイバーセキュリティ用途に関する公式情報。 - The Register「Mythos discovers ‘Squidbleed,’ a memory leak that’s gone undetected since Clinton era」
Squidで発見されたメモリ情報漏えい問題と、影響を受ける条件を解説。 - AP通信・Reuters「Anthropic says its AI models hacked organizations during testing」
サイバー評価環境の設定ミスにより、AIが実在する組織へアクセスした別件と、その後の安全対策を報道。
