近年、海賊版コンテンツ(著作権侵害)対策のメッセージキャンペーンがさかんに行われていますが、繰り返し発信されるこれらのメッセージが逆に著作権侵害行為を助長する可能性があるとする新たな研究結果が注目されています。フランスの名門ビジネススクールESSCAの経済学者らが行動経済学の視点から分析を行い、従来の海賊版対策手法に対する疑問を提起しています。
海賊版対策の現状:繰り返しメッセージの意図とその影響
海賊版による著作権侵害は世界的な経済損失の原因とされています。国際的なソフトウェア産業を代表する団体BSA(Business Software Alliance)の調査によれば、世界中のソフトウェアの37%が不正使用されており、音楽に関しても38%が違法入手されていると国際レコード・ビデオ製作者連盟(IFPI)は報告しています。こうした状況を受け、海賊版を防ぐためのメッセージキャンペーンは「被害者の数」「経済損失」「法的リスク」に焦点を当て、消費者に著作権侵害の深刻さを繰り返し訴えることが一般的です。しかし、ESSCAのグロロー・ジル博士とリュック・ムニエ博士の研究では、このメッセージ戦略に逆効果のリスクがあると指摘されています。
なぜ繰り返しのメッセージが逆効果を生むのか?行動経済学の視点からの分析
1. 消費者と著作権者の認識のギャップ
まず、著作権者が「海賊行為=窃盗」と見なすのに対し、多くの消費者はこれを「デジタル共有」と捉えており、行動の正当性についての認識が大きく異なっています。このギャップが、海賊版対策メッセージの影響力を弱める要因の一つとなっている可能性が指摘されています。
2. 共感を呼びにくいメッセージの内容
ジル博士とムニエ博士の研究によると、行動を抑制するためには「具体的で共感を呼ぶ被害者」が効果的であるとされています。一般的なキャンペーンは「被害者数が多い」ことに焦点を当てますが、「誰もが心を動かされるような個別のストーリー」がないため、消費者が共感しにくいとされています。
3. 「禁止された行為」を示す逆効果
さらに、特定の行動を「してほしくない」と明示すると、逆にその行動を増加させる可能性も指摘されています。例えば、国立公園の「石を持ち帰らないで」という看板が「石を持ち帰る人が多い」と具体的に示すと、実際に持ち帰る人が増加したという研究があります。同様に、「多くの人が海賊版を利用している」というメッセージは、逆に「なら自分もやってみよう」という心理を刺激することになりかねません。
海賊版対策の効果的なアプローチとは?
ジル博士とムニエ博士は、現在の対策メッセージのように「著作権侵害の普及度」を強調するのではなく、違法なコンテンツを利用することが消費者自身や身近な人々に与える悪影響や、具体的な被害者を中心に据えたメッセージが効果的であると提案しています。さらに、海賊版を利用する代わりに正規のコンテンツへアクセスする方法を具体的に示すことが、消費者行動の変化を促進する可能性があると考えられています。
海賊版対策を成功させるために求められる視点
この研究結果を踏まえ、著作権者やコンテンツ提供者に求められるのは、より消費者視点に立ったアプローチです。著作権侵害を防止するためには、メッセージの工夫や消費者の行動を促す具体的な手法の導入が必要です。例えば、「違法行為がどれほど行われているか」を繰り返す代わりに、ユーザーが違法行為に頼らず正規のコンテンツを利用できる選択肢やサポートを提供することで、消費者行動の健全化が期待できるでしょう。
まとめ:海賊版対策における行動経済学の活用
本研究は、従来の「脅し型」メッセージに頼った海賊版対策の限界と、行動経済学的アプローチの可能性を示唆しています。消費者の心理や認識を考慮したメッセージングにシフトすることで、著作権侵害行為の抑制を目指す新たな方向性が求められています。
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