トマトに豊富に含まれる赤色の天然色素「リコピン」が、脳の健康や認知機能に良い影響を与える可能性が、新たな臨床研究で示されました。スペインのバルセロナ大学などの研究チームは、健康な中年成人42人を対象に、トマトペーストを毎日35g摂取する食生活を3カ月間続けた場合の変化を調査。その結果、血中リコピン濃度の上昇に加え、注意力や記憶力の一部に改善が見られ、脳の活動を調べる機能的MRI検査でも神経ネットワークの接続状態に変化が確認されました。研究成果は2026年、科学誌「Antioxidants」に掲載されており、日常的な食事が脳の情報処理や認知機能に影響する可能性を示す興味深い発見として注目されています。ただし、今回の結果だけでトマトが認知症を予防したり、脳機能を長期的に改善したりすると証明されたわけではありません。

🔬 42人を対象に3カ月間の食事実験!トマトペーストが認知機能に与える影響
研究チームは40〜55歳の健康な成人42人を対象に、同じ参加者が「トマトペーストを毎日35g摂取する食事」と「リコピンの少ない食事」の両方を経験する、ランダム化クロスオーバー試験を実施しました。参加者は最初に1週間、トマトやスイカ、パパイヤ、グレープフルーツなどリコピンを多く含む食品を控え、その後いずれかの食事条件を3カ月間継続しました。さらに1カ月の中断期間を挟んで条件を入れ替え、再び3カ月間の食事介入を行っています。この方法は個人差の影響を抑えやすい一方、参加者自身がトマトを食べているかどうかを認識しているため、完全な二重盲検試験ではありません。血液検査ではトマトペースト摂取後に血中リコピン濃度が明確に上昇し、神経細胞の成長やシナプスの働きに関わる「脳由来神経栄養因子(BDNF)」もわずかに増加しました。認知機能テストでは、必要な情報に意識を集中させる選択的注意力が改善し、連想記憶にも小さな向上が見られたと報告されています。

🧠 脳スキャンにも変化!神経ネットワークの接続性と情報処理の関係
研究チームは参加者のうち14人を対象に、安静時機能的MRI(fMRI)による脳活動の解析も実施しました。fMRIは脳内の血流に関連する信号の変化を測定し、離れた脳領域がどの程度連動して活動しているかを推定する検査です。解析の結果、トマトペーストを摂取した条件では、注意や認知制御に関係する「前頭頭頂ネットワーク」と、音の情報処理に関わる「聴覚ネットワーク」の安静時機能的結合が低下していました。一方、リコピン摂取量が少ない条件では、注意の方向づけに関わる「背側注意ネットワーク」の接続性が低下する傾向が確認されました。研究者らは、こうした変化が脳内ネットワークの機能的な再編成を反映している可能性を指摘しています。ただし、脳領域間の接続性が低下したからといって、必ずしも脳の働きが良くなったことを意味するわけではありません。 接続性の変化には複数の解釈があり、今回のMRI解析も14人という小規模なものであるため、神経効率の向上という説明は現段階では仮説にとどまります。

🥗 なぜトマトが脳に良い可能性がある?リコピンの抗酸化作用と吸収率
トマトの健康効果を考えるうえで重要なのが、カロテノイドの一種である「リコピン」です。リコピンには抗酸化作用があり、細胞を傷つける酸化ストレスや炎症反応との関係が研究されています。脳は酸素を大量に消費する臓器であり、酸化ストレスの影響を受けやすいことから、リコピンが神経細胞の保護に役立つ可能性が指摘されています。また、リコピンは脂溶性の成分であり、トマトを加熱・加工して細胞構造を壊すことで、体内に吸収されやすくなる場合があります。オリーブオイルなどの脂質と組み合わせることも、吸収を助ける方法の1つです。ただし、トマトにはビタミンCやビタミンE、ポリフェノールなど複数の成分が含まれているため、今回の認知機能の変化がリコピン単独によるものかは判断できません。さらに、過去には高齢者を対象とした小規模研究でも、トマト由来のカロテノイドを含む食品の摂取後に注意力や作業記憶の改善が報告されていますが、現時点では研究数や参加者数が限られています。
🍅 トマトペーストの栄養と効率的な取り入れ方
- 🧠 リコピン: 抗酸化作用を持ち、酸化ストレスや神経炎症との関連が研究されている
- 🔥 加熱・加工: トマトの細胞構造が壊れることで、リコピンの利用効率が高まる場合がある
- 🫒 油と組み合わせる: リコピンは脂溶性のため、適量のオリーブオイルなどと一緒に摂取すると吸収を助ける
- 🍝 料理への活用: パスタソース、スープ、煮込み料理などに少量ずつ加えられる
- ⚠️ 注意点: 市販のトマトペーストは商品によって食塩などの添加量が異なるため、成分表示を確認する
⚠️ 認知症予防にも効果がある?研究の限界と今後の課題
今回の研究は、食生活の改善が脳機能に影響する可能性を示した一方で、いくつかの重要な限界があります。参加者は42人と少なく、脳スキャンの対象者は14人に限られていました。特にfMRI解析では、研究で予定されていた厳格な統計補正を満たさず、補正前の比較的緩やかな基準で変化が報告されているため、偶然の結果である可能性も慎重に考える必要があります。また、参加者が食事内容を認識していたことから、期待や意欲が認知テストの結果に影響した可能性も否定できません。BDNFの増加についても統計的には境界的な結果であり、明確な改善と断定することはできません。さらに、健康な中年成人を対象とした短期間の研究であるため、認知症の発症予防やアルツハイマー病の治療効果を示すものではありません。今後は、より多くの参加者を対象とした長期的な試験によって、認知機能の改善が持続するのか、実生活で意味のある変化につながるのかを検証する必要があります。
📝 まとめ:トマトペーストの継続摂取が脳の健康を支える可能性
スペインの研究チームによる臨床試験では、トマトペーストを毎日35g、3カ月間摂取した健康な中年成人において、選択的注意力の改善や血中リコピン濃度の上昇、脳ネットワークの接続性の変化が報告されました。これらは、トマトに含まれる栄養成分が認知機能に関係する可能性を示していますが、現段階では予備的な研究成果であり、脳機能の長期的な改善や認知症予防が証明されたわけではありません。それでも、トマトは日常の食事に取り入れやすい栄養豊富な食品であり、バランスの取れた食生活の一部として継続的に摂取する価値があるといえるでしょう。
📚 参考・出典
- Antioxidants — Tomato Intake Improves Cognitive Performance and Modulates Functional Brain Networks in Healthy Adults: A Randomized Crossover Clinical Trial(原著論文・2026年)
- ScienceAlert — Scientists Had People Eat Tomato Paste For 3 Months. Their Brain Scans Looked Different.(2026年9月9日)
- NIH Office of Dietary Supplements — Antioxidants: In Depth
- PubMed — リコピンと健康に関する研究文献
