✈️ 500以上の職業を比較、トップは「客室乗務員」
飛行機に乗る仕事というと、長時間勤務や時差による睡眠不足が健康リスクとして注目されがちですが、もうひとつ見逃せないのが上空で受ける「宇宙放射線」です。2026年8月に医学誌「JAMA Internal Medicine」に掲載された研究では、米国の503職種を比較した結果、放射線関連がんによる死亡の割合が最も高かったのは客室乗務員、2番目がパイロットでした。研究チームによると、米国の航空乗務員は職業集団の中でも平均年間実効線量が特に高く、その主な原因は旅客機が飛行する高度で受ける宇宙線です。
研究チームは、米国のNational Vital Statistics Systemに登録された2020~2024年の死亡証明書約1300万件を解析しました。死亡者を503の職業カテゴリーに分類し、年齢、性別、人種・民族、学歴、婚姻状況などの違いを統計的に調整。その上で、乳がん、甲状腺がん、前立腺がん、白血病、多発性骨髄腫、悪性黒色腫などを含む「放射線関連がん」と、それ以外のがんによる死亡を比較しました。これは特定の航空会社や少数の乗務員だけを追跡した研究とは異なり、同じ人口ベースのデータを使って500以上の職業を横断的に比較した点が特徴です。

📊 客室乗務員は50%、パイロットは36%高い結果に
分析では、客室乗務員の放射線関連がんによる死亡割合は他職種と比べて約50%高く、パイロットも約36%高いという関連が確認されました。興味深いのは、航空整備士や航空機組立工だけでなく、放射線を扱う核関連技術者などと比較しても航空乗務員が上位に位置したことです。一方、「放射線と関連しないがん」の死亡では客室乗務員とパイロットは突出しておらず、全職種の中央値付近でした。この対照的な結果が、航空業務特有の環境要因を詳しく調べる必要性を示しています。
今回のポイントを整理すると次の通りです。
- 🥇 客室乗務員:放射線関連がん死亡の割合が503職種中で最も高かった
- 🥈 パイロット:客室乗務員に次いで2番目
- ☢️ 航空乗務員は高高度で宇宙由来の電離放射線に繰り返しさらされる
- 🌙 夜間勤務・時差による概日リズムの乱れも別の健康要因として研究されている
- ⚠️ ただし今回の研究だけで「宇宙線が死亡増加の原因」と証明されたわけではない
CDCも、航空乗務員では皮膚がんや女性の乳がんが一般人口より多い可能性があると説明していますが、その背景には宇宙線だけでなく、概日リズムの乱れや仕事以外のリスク因子など複数の要素が考えられます。

☢️ なぜ飛行機の中で放射線を浴びるのか?
宇宙から地球には高エネルギー粒子が絶えず飛来しています。しかし地上では分厚い大気が天然の遮蔽物として働くため、宇宙線の多くが吸収・散乱されます。旅客機が飛行する高度まで上昇すると頭上の大気が薄くなるため、宇宙線による被ばく量も増加します。さらに被ばく量は一定ではなく、飛行高度が高いほど増え、地磁気の影響から高緯度・極域に近い航路でも増えることがFAAの2026年版資料で説明されています。まれに発生する大規模な太陽粒子現象も、一時的に線量を増加させる要因になります。
つまり「飛行機そのものが放射線を発生させている」わけではありません。乗務員は一般の旅行者とは異なり、年間に何百時間も高高度で勤務するため、1回あたりでは小さな被ばくが職業人生を通して積み重なる点が重要です。CDCは乗客と乗務員の双方がフライトのたびに宇宙線を受けると説明しており、FAAも航空乗務員を米国では法的な意味での「radiation worker」に分類してはいないものの、職業上電離放射線にさらされる集団として扱っています。

🧬 「50%高い」=宇宙線でがんになる確率が50%増える、ではない
ここは今回の研究を読む上で特に重要です。研究は死亡証明書に記録された職業と死因を分析した横断研究であり、一人ひとりが生涯に何時間飛行し、実際に何mSvの宇宙線を受けたのかを直接測定した研究ではありません。そのため「客室乗務員になれば宇宙線のせいでがん死亡リスクが50%増える」と単純化することはできません。航空乗務員には夜勤・時差、生活習慣、紫外線など宇宙線以外にも一般人口とは異なる要因があり、職業歴の長さについても詳細な検討が必要です。CDCも航空乗務員で一部のがんが多い理由について、宇宙線だけでは確定できないとしています。
それでも今回の結果が注目されるのは、既存研究で指摘されてきた「航空乗務員は職業的に比較的多くの電離放射線を受ける」という事実と、全米規模の死亡統計から得られた結果が同じ方向を向いているためです。FAAも2026年7月に航空乗務員向け放射線ガイドを更新し、通常の航空環境で問題になるのは急性放射線障害ではなく、低線量被ばくの積み重ねに伴う生涯の放射線関連疾患リスクの小さな増加だと説明しています。CDCは妊娠中の乗務員についても宇宙線への配慮を呼びかけており、航空医学ではすでに重要な職業被ばくの一つとして扱われています。
🔎 まとめ:空の仕事には「見えない職業被ばく」がある
今回の研究では、米国の約1300万人・503職種を分析した結果、放射線関連がんによる死亡の割合は客室乗務員が最も高く、パイロットが2番目となりました。高高度では地上より宇宙線が強く、長期間勤務する航空乗務員では被ばくが積み重なるため、研究チームは職業上の放射線防護をさらに検討する根拠になるとしています。ただし、これは宇宙線とがん死亡の直接的な因果関係を証明した研究ではありません。今後、個人ごとの飛行時間、航路、高度、累積線量、勤務年数とがん発症・死亡を長期間追跡できれば、航空乗務員のリスクをより正確に評価できるようになるでしょう。
📚 参考・出典
・JAMA Internal Medicine「Cancer-Related Mortality Among US Pilots and Flight Attendants」
・Harvard Medical School発表(EurekAlert掲載)
・CDC / NIOSH「Aircrew and Cosmic Ionizing Radiation」
・CDC / NIOSH「Cancer in Aircrew」
・FAA「What Aircrews Should Know About Their Occupational Exposure to Ionizing Radiation, 2026 Edition」
