HPVワクチンは男性の「のどのがん」も防ぐ?140万人超の研究で頭頸部がんリスク低下との関連

HPVワクチンは男性の「のどのがん」も防ぐ?140万人超の研究で頭頸部がんリスク低下との関連 #news
HPVワクチン接種者では頭頸部がんが大幅に少なかったことが、140万人超を対象とした米国の研究で判明。特に中咽頭がんで大きな差が確認されました。男性へのHPVワクチン接種の意義や海外の動向、日本の制度について解説します。

🦠 HPVは「子宮頸がんだけ」の原因ではない

HPV(ヒトパピローマウイルス)は子宮頸がんの主要な原因として知られていますが、実際には女性だけに関係するウイルスではありません。HPVには多数の型があり、その一部の「高リスク型」への感染が長期間持続すると、子宮頸がんのほか、肛門がん、陰茎がん、外陰がん、腟がん、そして口や喉の奥に発生する中咽頭がんなどにつながることがあります。特に中咽頭は扁桃や舌根などを含む領域で、米CDCによれば米国の中咽頭がんの60~70%にHPVが関与すると考えられています。また、口腔HPV感染は女性より男性で多いというデータもあり、HPV関連がんの予防を「女性だけの問題」と捉えるのは実態に合わなくなっています。なおHPV感染の多くは免疫によって1~2年ほどで自然に排除され、感染したからといって直ちにがんになるわけではありません。

🔬 140万人超を追跡、ワクチン接種者では頭頸部がんが大幅に少なかった

2026年8月に「International Journal of Infectious Diseases」で公開された研究では、米国66医療機関の匿名化された電子医療記録を使い、9~45歳のHPVワクチン接種者71万6630人と、年齢・性別・併存疾患などをそろえた未接種者71万6630人を比較しました。合計143万人を超える大規模なリアルワールド研究です。その結果、頭頸部がんは接種群で40例、対照群では130例確認され、統計モデル上のハザード比は0.315でした。単純に「全員の発症確率が68.5%下がる」と断定できる数字ではありませんが、ワクチン接種者では頭頸部がんの発生率が大幅に低かったことを示しています。さらに9~26歳ではハザード比0.323となり、若い時期に接種した集団で明確な関連が確認されました。追跡期間を延ばした解析でも、こうした関連は接種後5~13年にわたって観察されています。

特に注目されるのが、HPVとの因果関係が強い「中咽頭がん」です。研究では中咽頭がんのハザード比が0.087となり、頭頸部がん全体よりさらに大きな差が確認されました。これは生物学的にも興味深い結果です。一口に「頭頸部がん」といっても原因は同じではなく、喫煙や飲酒との関連が強いがんもあります。実際、CDCはHPVが主として関係する頭頸部領域のがんを中咽頭がんとしており、喉頭、唇、鼻、唾液腺などのがんまでHPVが引き起こすとは考えられていません。今回、HPVとの関係が特に強い中咽頭で大きなリスク低下が観察された点は、ワクチンによる予防効果という仮説と整合的です。

👨 なぜ「男性のHPVワクチン」が重要になっているのか

HPVワクチンはもともと子宮頸がん予防という文脈で普及したため、「女性向けワクチン」という印象が強く残っています。しかし男性自身もHPV関連の中咽頭がん、肛門がん、陰茎がんなどを発症する可能性があります。そのため近年は、男女双方を対象とする「ジェンダーニュートラル接種」が国際的に広がっています。2025年時点の国際産婦人科連合(FIGO)の声明では、HPVワクチンを国家予防接種プログラムに導入しているWHO加盟国148カ国のうち76カ国が男女双方を対象としていると報告されています。男性への接種には「女性への感染を減らす」という集団免疫上の意味だけでなく、男性本人のHPV関連疾患を直接予防するという意味があるわけです。

HPVワクチンの重要なポイントを整理すると、次のようになります。

  • 👩 女性:子宮頸がんをはじめ、外陰・腟・肛門などのHPV関連がんを予防
  • 👨 男性:中咽頭・肛門・陰茎などのHPV関連疾患を予防できる可能性
  • 👥 男女双方への接種:社会全体でHPVが循環する機会を減らす効果も期待
  • 💉 感染前の接種が重要:既存のHPV感染を治療するワクチンではない
  • がん予防効果の評価には時間がかかる:HPV感染から発がんまで長期間を要するため、大規模・長期追跡研究が重要

米国CDCは11~12歳での定期接種を推奨し、9歳から開始可能としています。また接種が完了していない場合は男女とも26歳までキャッチアップ接種を推奨しています。27~45歳については全員への一律接種ではなく、医療従事者との相談によって接種を検討する方式です。これはHPVワクチンが既存感染を治療するものではなく、感染前ほど得られる利益が大きいためです。

🇯🇵 日本ではどうなっている?男女で公費接種に大きな違い

日本では2022年4月からHPVワクチンの積極的勧奨が再開され、2026年度から定期接種で公費使用されるHPVワクチンは9価ワクチン「シルガード9」に一本化されています。一方、国の定期接種の対象は現在も小学校6年~高校1年相当の女子であり、男性は同じ全国一律の定期接種制度には含まれていません。したがって、男性が接種を希望する場合は費用負担の確認が必要です。自治体によって独自の男性向け助成制度が設けられる場合もあるため、実際の接種を検討する際には居住自治体や医療機関の最新情報を確認する必要があります。

国際的には事情が少し異なります。WHOは子宮頸がんの疾病負担を踏まえて9~14歳の女子を最優先対象としていますが、資金やワクチン供給に余裕がある場合には男子などの二次的対象への接種も推奨しています。つまり、「女性を優先する」という公衆衛生上の資源配分と、「男性にも直接的な予防利益がある」という医学的な話は両立します。今回の140万人規模の研究は、これまで感染率や前がん病変などを中心に蓄積されてきた知見に加えて、実際の頭頸部がん発症という重要なアウトカムでもワクチン接種との関連を示した点に価値があります。

📌 まとめ:HPVワクチンは「子宮頸がんワクチン」から「男女のがん予防ワクチン」へ

今回の研究では、HPVワクチン接種者は未接種者と比べて頭頸部がんの発症が大幅に少なく、特にHPVとの関連が強い中咽頭がんで顕著な差が確認されました。ただし、これは無作為化比較試験ではなく医療記録を利用した観察研究であり、ワクチン接種者と未接種者の生活習慣など、調整しきれない交絡因子が残る可能性があります。そのため「接種すれば頭頸部がんが必ず約7割減る」と単純化するのは適切ではありません。それでも、HPVワクチンが感染を防ぎ、HPV関連疾患を減らす既存のエビデンスと今回の結果は方向性が一致しています。HPVワクチンを「女性の子宮頸がん対策」だけではなく、男女双方に関係する複数のがんを感染段階から予防する手段として捉える動きは、今後さらに強まっていきそうです。

📚 参考・出典

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