🏔️ エベレストの有名遺体「グリーンブーツ」の身元が判明 30年越しのDNA鑑定と史上屈指の回収計画

🏔️ エベレストの有名遺体「グリーンブーツ」の身元が判明 30年越しのDNA鑑定と史上屈指の回収計画 #news
エベレスト北東稜の有名遺体「グリーンブーツ」が、DNA鑑定によりインド・チベット国境警察のドルジェ・モルップ氏と判明。1996年の大量遭難、長年続いた身元論争、標高8500メートルから遺体を回収する危険なミッションの詳細を解説します。

世界最高峰エベレストの北東稜ルートで、約30年にわたり「グリーンブーツ」と呼ばれてきた登山者の遺体について、インド当局はインド・チベット国境警察(ITBP)に所属していた登山隊員、ドルジェ・モルップ氏の遺体であると確認したと報じられています。緑色の登山靴が洞窟状の岩陰から見えていたことからこの通称が付き、標高約8500メートルを通過する登山者にとって、山頂までの距離を示す痛ましい目印となっていました。インド政府は現在、遺体をチベット側から回収して遺族のもとへ返すため、専門業者を選定する極めて危険なミッションを進めています。

👢 なぜ「グリーンブーツ」はエベレストの象徴になったのか

グリーンブーツが広く知られるようになったのは、1996年5月のエベレスト大量遭難後です。映像作家マット・ディキンソン氏が北側ルートで撮影した映像には、鮮やかな緑色の登山靴を履いた人物が岩陰に横たわる様子が記録されていました。遺体があった場所は山頂まで約350メートル、標高約8500メートルの「デスゾーン」に位置します。北東稜から山頂を目指す登山者の多くがその前を通過したため、いつしか場所そのものが「グリーンブーツ・ケーブ」と呼ばれるようになりました。

この場所では2006年、単独で登頂を目指していたイギリス人登山家デビッド・シャープ氏も亡くなっています。複数の登山者がシャープ氏の近くを通過したものの、極端な低酸素状態や救助能力の限界、そしてグリーンブーツとの誤認などが重なり、救助には至りませんでした。この出来事は「登頂を優先するべきか、他者の救助を試みるべきか」という高所登山の倫理を巡る議論を世界的に広げる契機にもなりました。

🧬 30年間続いた身元論争 DNA鑑定が示したドルジェ・モルップ氏

グリーンブーツの身元については長年、1996年に遭難したITBP登山隊のツェワン・パルジョール氏だと広く考えられてきました。しかし、同じ遠征隊の副リーダーを務めたP・M・ダス氏が1997年に発表した記録では、遺体の位置や最後に目撃された状況から、ドルジェ・モルップ氏である可能性が示されていました。今回、インド当局が保有する資料やDNA鑑定を通じて、遺体はモルップ氏のものだと確認されたと報じられ、30年近く続いた身元論争に大きな決着がついた形です。

📌 身元特定までの主な経緯

  • 1996年5月10日:ITBP隊の3人が北稜ルートから山頂を目指す
  • 同日夕方:登頂成功を無線で報告した後、嵐で交信が途絶える
  • 5月11日:日本の福岡隊が下山中のモルップ氏らを目撃
  • その後:3人全員が死亡し、1人の遺体が岩陰で発見される
  • 長年:グリーンブーツはパルジョール氏との説が広まる
  • 2026年:DNA鑑定などによりモルップ氏と確認されたと報道

当時の記録によると、モルップ氏は激しい凍傷を負いながらファーストステップとセカンドステップの間を下山していました。日本の福岡隊は固定ロープへのカラビナの付け替えを手伝うなどの支援を行いましたが、モルップ氏は最終的に第6キャンプ付近まで戻れず死亡したとみられています。一方、パルジョール氏の遺体は確認されておらず、東側のカンシュン面へ滑落した可能性も指摘されています。

⚠️ 遺体回収は通常の登山以上に危険 中国側の許可も必要

ITBPは、モルップ氏の遺体を回収してデリーへ移送するため、高所作業の経験を持つ専門チームを募集しています。インド政府の電子調達システムには、「故ドルジェ・モルップ、グリーンブーツの遺体回収」を目的とする入札案件が掲載され、チベット側からの回収作業を2026年中に実施する計画が示されています。ただし、遺体は中国のチベット自治区側にあるため、実際の入山や作業には中国当局の許可と協力が欠かせません。

🧗 回収を難しくする主な要因

  • 酸素濃度が海面付近の約3分の1となる標高約8500メートル
  • 強風や急変する天候、マイナス数十度の極寒
  • ヘリコプターによる直接回収が事実上困難
  • 約30年間凍結され、岩や氷と一体化した遺体
  • 装備や氷を含めると重量が大幅に増える可能性
  • 回収スタッフ自身が高山病や凍傷、滑落に遭う危険
  • 中国当局との許認可・国境を越えた搬送手続き

エベレストで5人の遺体回収に携わった経験を持つツィリン・ジャンブ・シェルパ氏は、今回の計画について、過去に試みられた中でも特に技術的難度が高く、通常の登山を大きく上回る危険を伴うと説明しています。遺体を運ぶには複数のシェルパが長時間にわたり急斜面で作業しなければならず、回収を行うことで新たな犠牲者を出す危険も無視できません。

🕯️ エベレストに遺体が残される理由と回収を巡る倫理

標高8000メートル以上のデスゾーンでは、人体は酸素不足によって急速に衰弱します。判断力や運動能力が低下するだけでなく、立ち止まって他人を支えること自体が救助者の生命を脅かします。このため、亡くなった登山者の遺体をその場から動かすことは非常に難しく、現在も多くの遺体がエベレストに残されているとみられています。

遺体を回収して遺族へ返すことには大きな人道的意義がありますが、回収者の命を危険にさらしてまで実施すべきなのかという問題もあります。また、遺体を山に残すことを本人が望んでいた場合や、現地の宗教・文化的な考え方との調整も必要です。グリーンブーツの回収計画は、登山史上の謎を解決するだけでなく、亡くなった登山者を「ルート上の目印」として扱ってきたエベレスト登山文化そのものを見直す動きともいえるでしょう。

📝 まとめ

約30年にわたり「グリーンブーツ」と呼ばれてきたエベレストの遺体は、DNA鑑定などによってITBP隊員のドルジェ・モルップ氏であると確認されたと報じられました。長年有力視されていたツェワン・パルジョール氏ではなく、当時の遠征記録が示唆していた人物だったことになります。

インド当局は遺体回収に向けた入札手続きを進めていますが、標高約8500メートルからの搬送は世界でも例の少ない危険な作業です。中国側の許可や天候、作業員の安全確保など多くの条件が残されており、計画どおりに回収できるかは確定していません。それでも実現すれば、モルップ氏を匿名の「ランドマーク」ではなく、一人の登山家として家族のもとへ帰す歴史的なミッションとなります。

📚 参考・出典

  • The Guardian「Mount Everest, a climber known only as ‘Green Boots’, and the mission to solve a 30-year mystery」
  • AP通信「India seeking to recover the body of an Everest climber known as ‘Green Boots’」
  • CBS News「India eyes “high risk” Mount Everest mission to recover frozen body of climber “Green Boots” after 30 years」
  • インド政府電子調達システム「Recovery of Mortal remains of Late Dorje Morup Green Boot」
  • P・M・ダス「The Indian Ascent of Qomolungma by the North Ridge」Himalayan Journal 第53号
  • ExplorersWeb「A High-Risk Mission to Retrieve ‘Green Boots’ from Everest」
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