小規模OSS「Deepkit」の商標が“資金調達250億円超”ベンチャー「Deepki」によりEUで取り消し──何が起きた?どう備える?

小規模OSS「Deepkit」の商標が“資金調達250億円超”ベンチャー「Deepki」によりEUで取り消し──何が起きた?どう備える? #news
TypeScript製バックエンドFW 「Deepkit」 のEU商標が取消し。理由は**「真正な使用(genuine use)」の立証不足**。取消しの効力は2024年3月18日に遡及。

要点まとめ(TL;DR)🧾

  • TypeScript製バックエンドFW 「Deepkit」EU商標が取消し。理由は**「真正な使用(genuine use)」の立証不足**。取消しの効力は2024年3月18日に遡及。Hacker News
  • 取消申立ての相手は、不動産向けESGデータSaaS企業 「Deepki」(仏・パリ)。同社は2022年に1.5億ユーロを調達。PR Newswire
  • 米国では「DEEPKI」の商標が2025年に登録(国際出願ルート:Serial 79393113)。trademarkia.com
  • 事件の経緯は開発者本人の投稿(Hacker News / Reddit)で詳述。OSSにとってプライバシー配慮と使用証明の両立が課題に。Hacker NewsReddit

この記事の狙い 🎯

  • 何が争点だったのか(EUの真正な使用の要件)
  • OSSが計測を最小限に保ちつつ「使用証拠」を積み上げる実務ポイント
  • ネーミングや商標運用のリスク低減策

背景:DeepkitとDeepkiとは?👥

  • Deepkit:TypeScriptで書かれたモジュラー型のバックエンドフレームワーク。OSSとして公開・配布。deepkit.io+1
  • Deepki:不動産業界向けのESGデータインテリジェンスSaaSシリーズCで€150Mを調達し、欧州・米国で事業拡大。PR Newswire+1

何が起きたのか(経緯)🕰️

  1. 2018年ごろ:DeepkitがEU/USで商標を取得・維持へ。
  2. 2022年3月:Deepkiが**€150Mを調達**。PR Newswire
  3. 2024年3月18日:DeepkiがEUIPOに取消申立て(当事者投稿)。その後、DeepkitのEU商標は取消し。効力は申立日へ遡及Hacker News
  4. 2025年:米国ではDEEPKI登録に到達(国際出願 79393113、2025年5月13日登録)。trademarkia.com

補足:Deepkit側はGitHubのREADMEで**「EUの“no genuine use”判定により改名」**と注記。GitHub


争点:EUの「真正な使用(genuine use)」とは?📘

EUIPOガイドラインの要点

  • 登録から連続5年以内に、EU域内商標の本質的機能(出所表示)に沿った実質的な使用が必要。
  • 証拠は領域(EU)・期間(5年)・指定商品・役務明確に紐づくこと。名目的使用はNG。guidelines.euipo.europa.eu+2guidelines.euipo.europa.eu+2

今回、Deepkit側の主張(要旨)

  • プライバシー配慮で計測を最小化しており、Google Analyticsもブロックで機能不全 → EUユーザーの実数証明が薄い
  • npm / GitHubのDLやスターは位置情報がなく、EU域内使用の裏付けに採用されずHacker NewsReddit

なぜOSSが不利になりやすいのか?🧩

  • OSSは無料配布・匿名利用が前提で、商流の紙証跡(請求書等)が少ない。
  • プライバシー配慮計測を抑えるほど、「EUで使われている」ことを証拠化しにくい
  • 企業側は法務・計測体制が厚く取消・異議のプロセスに習熟しているケースが多い。
    (一般論。個別案件の優劣を断じるものではありません)

OSSがいまできる「最小限の証拠化」💡(実務Tips)

※法的助言ではありません。案件ごとに専門家へご相談ください。

1) 匿名・集計で「EU使用」を残す(プライバシー配慮)🛡️

  • 国レベルの集計のみ保存(IPの生データは残さず短期破棄)。
  • アクセス/イベントのEU比率期間指定でエクスポート可能に。
  • プライバシーポリシーに「商標の真正な使用の立証」を目的とする最小限計測を明記。

2) 配布の地域指標を確保(npm/GitHubの弱点補強)📦

  • EU内ミラーや**CDNログ(国レベル集計)“EU経由DL数”**を定点記録。
  • 署名付きレポートタイムスタンプ改ざん耐性を確保。

3) 役務との紐づけを可視化(“出所表示”の実体化)🔖

  • ダウンロード/導入ページ商標入りの配布物を掲示(日付・バージョンの履歴付与)。
  • EU内の導入事例(企業名/VAT番号が分かる範囲)を匿名化事例として掲載し、契約書/請求書は内部保全。

4) EUでの活動の足跡を残す(オフラインも効く)📸

  • EU内イベント登壇・配布物・写真商標使用を明記し、資料を時刻証明で保存。

5) 早期の衝突回避とプランB 🧭

  • EUIPO/USPTOのデータベース近似商標の早期調査。
  • 万一に備え、サブブランドエディション名混同回避の運用設計。

参考:EUIPOの取消し・真正な使用に関するガイドライン。guidelines.euipo.europa.eu+2guidelines.euipo.europa.eu+2


よくある疑問(Q&A)❓

Q1. GitHubやnpmのDL数ではダメ?
A. 役立つ場合もありますが、“EU域内”の使用に直接ひもづく地理情報や、指定商品・役務との対応が弱いと、証拠価値が限定されます。guidelines.euipo.europa.eu

Q2. ウェブ解析を最小化しながら証拠を作るコツは?
A. 匿名・集計(国単位)短期保持目的限定(ポリシー明記)。EU内の実体行為(導入事例、請求書、イベント)を補完証拠に。

Q3. 名前を変えるべき?戦うべき?
A. コスト・期間・成功確率を専門家と定量評価し、撤退基準(改名含む)を先に設定してから判断を。Hacker News/Redditでも**「名称維持派」「早期撤退派」**で意見は割れています。Hacker NewsReddit


編集部コメント(所感)📝

今回の件は、OSS運営における“防御としての最小限計測”の重要性を浮き彫りにしました。ユーザーのプライバシーと証拠の実務要件は対立ではなく、設計次第で両立可能です。
加えて、国・地域を跨ぐ商標戦略(EUとUSの進捗差など)を早期から並走させることも、長期のネーミング保全には有効です。


参考リンク(一次情報・公的資料など)🔗


免責事項 ⚖️

本記事は一般的情報の提供を目的としており、法的助言ではありません。実際の対応や判断は、事件の個別事情に応じて弁理士・弁護士等の専門家にご相談ください。

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