🛰️ Amazonが5105基のD2D衛星をFCCに申請、2028年から展開へ
Amazonの衛星通信部門「Amazon Leo」が、スマートフォンなどと宇宙から直接通信する新しい「Direct-to-Device(D2D)」ネットワークの構築に乗り出しました。Amazonは米連邦通信委員会(FCC)に対し、最大5105基の低軌道(LEO)衛星を打ち上げ・運用する認可を申請しており、2028年から100回以上の打ち上げミッションを通じて衛星群を展開する計画です。新システムでは音声通話、メッセージ、データ通信、緊急通信などを、携帯電話基地局が存在しない地域でも衛星から対応端末へ直接届けることを目指します。重要なのは、これは現在Amazonが展開している3000基超規模の固定ブロードバンド向けLeo衛星群を単純に5105基へ増やす計画ではないことです。Amazon Leo本体の第1・第2世代ネットワークに加え、Globalstarの既存衛星網、さらに今回申請した最大5105基のD2D衛星群を組み合わせ、家庭向け衛星インターネットからスマートフォンの直接通信までを一つの巨大な宇宙通信網に統合する構想となっています。

Amazon Leoは旧称「Project Kuiper」としてStarlinkに対抗する衛星ブロードバンド事業を進めてきました。2025年4月から本格的な衛星配備を開始し、2026年7月には軌道上の衛星数が390基を突破。3000基を超える第1世代ネットワークの完成にはまだ時間が必要ですが、Amazonは2026年後半から初期ブロードバンドサービスを開始する方針です。家庭や企業では「Leo Nano」「Leo Pro」「Leo Ultra」といった専用アンテナで衛星へ接続する一方、新しいD2Dでは専用パラボラアンテナを必要とせず、対応するスマートフォンやIoT機器などが衛星と直接通信します。つまりAmazonは、「Starlinkのような衛星インターネット」と「携帯電話基地局の宇宙版」を同時に構築しようとしていることになります。

📱 iPhone・Apple Watchの衛星通信もAmazon Leoへ、Globalstar買収が転換点
AmazonのD2D戦略を大きく前進させたのが、2026年4月に発表された衛星通信会社Globalstarの買収です。Globalstarは長年モバイル衛星通信を運営してきた企業で、衛星だけでなく地上設備や運用ノウハウ、世界各国で認可されたMSS(Mobile Satellite Service)周波数資産を保有しています。そしてGlobalstarは、iPhone 14以降で提供されているAppleの「衛星経由の緊急SOS」「メッセージ」「探す」「ロードサービス」などを裏側で支えてきた企業でもあります。AmazonはGlobalstarの買収と同時にAppleとも新たな契約を締結し、現在Globalstarを利用している対応iPhone・Apple Watchの衛星機能を継続するとともに、将来的には拡張されたAmazon Leoネットワークを使った新しい衛星サービスをAppleと共同開発する方針を明らかにしています。

この買収でAmazonが手に入れるのは「衛星の数」だけではありません。衛星通信では利用できる周波数(スペクトラム)が極めて重要であり、どれだけ高性能な衛星を作っても、各国で合法的に利用できる電波がなければ通信サービスは成立しません。Globalstarはすでに世界各国でMSS周波数の認可と通信インフラを持っているため、Amazonはゼロから世界中で衛星携帯電話サービスを立ち上げるよりもはるかに有利な位置からD2Dへ参入できます。Amazonは新しいD2D衛星でもGlobalstarの周波数資産を利用する計画で、既存Globalstar衛星、新世代Globalstar衛星、Amazon Leo第1・第2世代、さらに5105基のD2D衛星を連携させます。Amazonによれば、完成したLeoネットワークは数億台規模の端末を支えられる容量を目指しています。

📡 「普通のスマホが宇宙と通信する」D2Dは何がすごいのか?
従来の衛星電話は大型アンテナや専用端末を必要とするものが一般的でした。しかしD2Dでは、衛星を事実上の「宇宙を飛ぶ携帯基地局」として機能させ、対応チップを搭載した一般的なスマートフォンなどから直接アクセスできることを目指します。AmazonはGlobalstarのMSS周波数と高度な信号処理技術を組み合わせ、限られた周波数を効率よく再利用しながら、地上ネットワークとの干渉を抑える設計を採用すると説明しています。低軌道衛星は地上から数百km程度の高度を高速で移動するため、約3万6000km上空にある静止衛星より遅延を小さくできる一方、衛星が次々と地平線を移動するため、端末との接続を別の衛星へ切り替え続ける高度なネットワーク制御が必要になります。
D2Dが普及すると、用途は緊急SOSだけにとどまりません。
- 🆘 災害・緊急通信:地震、洪水、山火事、ハリケーンなどで携帯基地局が停止しても衛星経由で通信
- 🏔️ 圏外地域:山岳地帯、砂漠、海上、農村部など基地局建設が難しい地域をカバー
- 🚚 物流・車両管理:世界各地を移動するトラック、船舶、設備などを継続的に追跡
- 🌾 IoT・農業:農地、鉱山、油田などに設置された遠隔センサーを衛星へ接続
- 📱 一般スマートフォン:対応端末なら圏外でもメッセージ、音声、データ通信へ段階的に拡張
- 🏛️ 政府・防災機関:地上通信インフラが破壊された際のバックアップ通信網として利用
特に災害時には、基地局そのものが停電・浸水・回線断で使用不能になっても、空が見える場所なら別系統の通信経路を確保できることがD2Dの大きな強みです。Appleが現在提供している衛星SOSはその初期形態ですが、Amazonが目指しているのは、それを音声・データ通信まで拡張したより本格的なモバイルネットワークです。
⚔️ Starlink・AST SpaceMobile・Amazonが「宇宙の携帯基地局」で激突
ただしAmazonが参入する2028年には、D2D市場はすでに激戦区になっている可能性があります。最大の競合はSpaceXのStarlinkで、既存の巨大な衛星群を利用してDirect-to-Cellサービスを展開しています。さらにAST SpaceMobileも、巨大なフェーズドアレイアンテナを搭載した「BlueBird」を宇宙へ配置し、通常のスマートフォンへ直接ブロードバンド通信を届けるネットワークを構築しています。ASTは2026年時点で米FCCから商用SpaceMobileサービスの認可を取得し、AT&T、Verizon、Vodafoneなど世界各国の通信事業者との提携を進めています。2026年には約45基の衛星配備を目標としており、すでに軌道上で約98.9Mbpsのピーク通信速度も実証しています。
Amazonの強みは、単純な衛星性能より既存事業を組み合わせられることにあります。Globalstarの周波数と衛星運用経験、Appleとの契約、Amazon Leoの数千基規模の衛星網、AWSのクラウド基盤、さらに世界中の通信事業者との提携を一つのエコシステムとして構築できます。一方で最大5105基というD2D衛星はまだFCCへ申請した段階であり、2028年から実際に大量配備するには規制当局の認可だけでなく、ロケット、衛星製造能力、地上局、各国の周波数認可など数多くのハードルがあります。AmazonはLeo本体だけでも80回以上の大型ロケット打ち上げ契約をArianespace、Blue Origin、SpaceX、ULAと結んでおり、そこへ100回以上のD2Dミッションが加わることになります。衛星通信競争は「良い衛星を作れるか」だけでなく、何千基もの衛星を実際に製造して宇宙へ送り続けられるかという巨大な物流競争でもあります。
🌍 まとめ:スマホの「圏外」という概念そのものが変わる可能性
Amazon Leoの最大5105基のD2D衛星計画は、単なるApple向け衛星サービスの拡張ではなく、携帯電話ネットワークそのものを地上から宇宙へ拡張する巨大プロジェクトです。Amazonは2026年後半から3000基超規模のLeoブロードバンド網を段階的にサービス化し、Globalstar買収によって周波数・衛星・地上設備・Appleとの関係を獲得、さらに2028年から専用D2D衛星群を追加する構想です。すべてが計画通り進めば、将来のスマートフォンでは「携帯基地局の圏外=通信不能」ではなく、地上回線が消えた瞬間に衛星へ切り替わることが当たり前になる可能性があります。一方で5105基のD2D衛星はまだFCCの認可を待つ計画であり、StarlinkやAST SpaceMobileも先行しています。今後数年間は、スマートフォンの通信網を誰が宇宙まで拡張するのかを巡る競争が、衛星・通信業界の大きなテーマになりそうです。
📚 参考・出典
- Amazon「How Amazon Leo plans to connect mobile devices from space」 — 最大5105基のD2D衛星、2028年からの展開、通信方式
- Amazon「Amazon to acquire Globalstar and expand Amazon Leo satellite network」 — Globalstar買収、Appleとの衛星通信契約、D2D構想
- Amazon Leo公式情報 — 3000基超のLeoブロードバンド衛星群、専用アンテナ、サービス概要
- Amazon「Leo set to accelerate satellite production and launch cadence」 — 衛星製造と打ち上げ計画
- Reuters — 2026年7月27日、Amazonによる5105基のD2D衛星FCC申請と競争環境
- AST SpaceMobile SEC提出資料 — D2D通信の実証、FCC認可、衛星配備計画
- AST SpaceMobile公式サイト — BlueBird衛星の展開状況
