🚨 ロシア区画の空気漏れで「Crew Dragon」への一時退避を指示
老朽化が進む国際宇宙ステーション(ISS)で空気漏れが悪化し、2026年6月5日、宇宙飛行士5人がドッキング中のSpaceX製宇宙船「Crew Dragon」へ一時退避する事態が発生しました。問題が起きたのは、ロシア側のズヴェズダ・サービス・モジュールと宇宙船のドッキングポートをつなぐ小型移送トンネル「PrK」です。ロシアの宇宙飛行士が修理作業を行う間、NASAは万一の急減圧に備え、アメリカ、フランス、ロシアの乗組員に宇宙服を着用してCrew Dragonへ移動し、すぐにISSから離脱できる状態を整えるよう指示しました。修理作業が中断されたことで約1時間半から2時間後に退避措置は解除されましたが、ISSの一部で進む構造劣化が、乗組員の緊急避難を検討する段階まで達していることを示す出来事となりました。

PrKで最初に空気漏れが確認されたのは2019年9月です。その後、宇宙飛行士が超音波検査や圧力測定で亀裂を探し、シーラントと呼ばれる補修剤を塗って対応してきました。しかし、漏れを完全に止める恒久的な修理方法は確立されておらず、別の場所に新しい微細亀裂が発生する状態が続いています。2026年には空気の損失が1日約1ポンドから一時約2ポンドへ増えたとされ、NASAはPrKの問題を「発生可能性」と「被害の深刻度」の両面で高いリスクとして扱っています。一方、ロスコスモスは急激な破壊につながる可能性を低く評価しており、アメリカとロシアの間では構造的な危険性について見解の差が残っています。

🔧 なぜ簡単に修理できない?宇宙で進む金属疲労の問題
ISSは1998年に最初のモジュールが打ち上げられ、2000年から人間が途切れることなく滞在しています。地上約400kmを秒速約7.7kmで周回する間、船体は太陽光を受ける高温状態と地球の影に入る低温状態を1日に十数回繰り返します。さらに、内部の空気圧、宇宙船のドッキング、軌道修正、姿勢制御などによる力も構造部分へ加わります。こうした長期間の温度変化や荷重によって金属疲労が蓄積し、溶接部や構造の弱い部分に微細な亀裂が生じた可能性が疑われています。ただし、NASAとロスコスモスはPrKの漏れについて単一の原因を特定できておらず、複数の要因が重なっているとみられます。

🔍 ISSの延命を難しくする主な問題
- 🧱 地上へ持ち帰って分解検査できない巨大構造物である
- 🌡️ 高温と低温を短時間で繰り返し、材料に負担がかかる
- 🔩 モジュールごとに設計国、製造年代、保守方法が異なる
- 🚀 ドッキングや軌道修正による振動・荷重が加わる
- 🧑🚀 修理作業自体が乗組員の安全リスクになる
- 🇺🇸🇷🇺 NASAとロスコスモスで危険度の評価が一致していない

⏳ 2030年退役予定も、後継施設の遅れで2032年延長論が浮上
NASAは現在、ISSを2030年末まで運用し、その後は低軌道での有人活動を民間宇宙ステーションへ移行する方針です。しかし、後継候補はいずれも開発途中であり、ISSと同等の研究能力や長期滞在能力を持つ施設が予定通り完成する保証はありません。NASAの監察総監も、商業宇宙ステーションの開発遅延により、ISSの退役から後継施設の運用開始まで「低軌道の有人拠点が存在しない空白期間」が発生するリスクを指摘しています。こうした事情から、アメリカ議会ではISSの運用を2032年まで延長する案も議論されていますが、運用期間を延ばせるかどうかは予算や国際協力だけでなく、船体が安全性を保てるかという技術的判断に左右されます。NASA自身も、商業施設が間に合わない場合はISS延長を要請する可能性を想定する一方、構造状態が許すことを前提条件としています。
後継候補の一つであるVastの「Haven-1」は、小型の単一モジュールからなる短期滞在向け施設で、ISSをそのまま置き換えるものではなく、将来の大型ステーションに必要な技術を実証する試験台に近い存在です。Vastは続いて、複数のモジュールを連結する「Haven-2」の最初の区画を2028年に運用し、約半年ごとに増設して2032年の完成を目指しています。このほか、Axiom Space、Starlab、Blue Originなども民間ステーションを計画していますが、資金調達、打ち上げ、生命維持装置の認証、継続的な顧客確保という難題があります。ISSでは各国政府が巨額の運用費を負担してきましたが、民間施設ではNASA以外の研究機関、企業、観光客などから安定した需要を確保しなければなりません。

🌊 420トンのISSを太平洋へ落とす「制御再突入」計画
ISSは役目を終えた後も軌道上へ放置できません。制御を失えば、数百トン規模の構造物がいつ、どこへ落下するか分からなくなるためです。NASAはSpaceXと最大8億4300万ドルの契約を結び、ISSの軌道を安全に低下させる「米国軌道離脱機」を開発しています。これはCrew Dragonをそのまま流用するのではなく、多数のエンジンと大量の推進剤を備えた専用機で、ISSへ接続して段階的に軌道を下げ、最終的に南太平洋の無人海域へ誘導します。候補地は陸地から極めて遠い「ポイント・ネモ」周辺ですが、ISSは大型航空機を上回る巨大構造物であり、すべてが大気圏で燃え尽きるとは限りません。NASAは破片が人口密集地へ到達する可能性を最小限にするため、乗組員が退去した後も数カ月かけて姿勢と軌道を管理する計画です。
🏗️ ISS後継施設に求められる条件
- 長期滞在を支える酸素、水、電力、温度管理
- 宇宙船が不在でも独立して機能できる生命維持能力
- 火災、急減圧、衝突に備えた複数の避難経路
- 地上から構造劣化を把握できるセンサーと診断機能
- ロボットによる船外点検・修理への対応
- 故障した区画を切り離し、交換できるモジュール設計
📝 まとめ:ISS延命は「後継機が間に合うまで」で決めてはいけない
PrKの空気漏れは、ISS全体が直ちに崩壊することを意味するものではなく、問題の区画を閉鎖して他の部分から隔離することも可能です。しかし、宇宙飛行士が一時的にCrew Dragonへ避難した事実は、ISSの老朽化が単なる維持費の問題ではなく、乗組員の生命に直結する段階へ入っていることを示しています。民間ステーションの完成が遅れているからという理由だけでISSを延命すれば、修理の難しい構造物へさらに負担をかけることになります。今後は暦上の「2030年」「2032年」だけで判断するのではなく、亀裂の進行、補修の有効性、緊急離脱能力、国際パートナー間の合意を継続的に評価し、安全限界へ達する前に退役を決断する必要があります。
📚 参考・出典
- The Conversation「Cracks in the International Space Station are causing air leaks – how much longer can it remain habitable?」
- Reuters「Who is aboard the International Space Station during the air leak?」
- NASA「Commercial Space Stations」
- NASA「NASA Selects International Space Station US Deorbit Vehicle」
- NASA Office of Inspector General「NASA’s Management of Risks to Sustaining ISS Operations through 2030」
- JAXA「国際宇宙ステーション(ISS)とは」
- Vast「Haven-2」
