アメリカの厳格な半導体輸出規制により、中国ではAI開発向けの高性能GPUが入手困難な状況が続いています。
しかし、その規制の網をかいくぐる形で、NVIDIAの最新フラッグシップGPU「GeForce RTX 5090」をAI向けに改造する中国の業者が存在することが明らかになりました。
動画共有サイトBilibiliに公開された映像には、RTX 5090のGPUチップを取り出し、専用設計の基板に移植する一連の工程が克明に映し出されています。
その姿は、単なる自作PC改造のレベルを超えた、ほぼ「工場規模」の産業的作業でした。

🎯 規制対象なのになぜ入手できるのか?
本来、中国向けには性能制限を加えた「RTX 5090 D」が流通しています。
しかし映像に映っていたのは、フル性能版RTX 5090。INNO3DやPalit製の製品が山積みされており、数百枚単位で保有している様子が確認できます。
この背景には、以下のような可能性が指摘されています。
- 中間業者や第三国経由での非公式流通
- 海外法人を経由した間接輸入
- 規制前に確保された在庫の転売ルート
いずれにせよ、正規ルートではあり得ない規模の入手であり、中国のAI市場におけるGPU需要の強さを物語っています。

Palit製のボードも大量に保有。

入手困難なはずのGeForce RTX 5090搭載ボードが大量に置かれています。

GeForce RTX 5090搭載ボードは、改造前に動作チェックが行われます。

テストをクリアした個体のみが、改造工程に進めます。
🛠️ 工場レベルの「魔改造」工程
動画では、RTX 5090をAI用ボードに改造する流れが詳細に映し出されています。
- 動作確認テスト
すべてのカードが稼働するか検証し、合格品のみ改造工程へ。 - 分解作業
冷却ファンやヒートシンクを外し、基板だけの状態に。 - GPUダイ取り外し
高精度機器を用い、GPUチップ(ダイ)を基板から慎重に分離。 - 新基板への移植
専用設計されたサーバー用基板にGPUを搭載。 - 外装・冷却機構装着
2スロット厚・外排気式クーラーを採用し、AI向けの並列配置に最適化。 - 最終テストと出荷
パッケージには「Ready For A.I」の文字が刻まれた専用箱が使用される。
このプロセスは、単なる個人改造ではなく、量産ラインに近い生産体制を示しています。
💡 なぜ「外排気式」にするのか?
通常のRTX 5090は内排気式で、ケース内部に熱をこもらせます。
しかしAI処理用サーバーでは1台のマシンに多数のGPUを並列搭載するため、冷却効率が極めて重要です。
外排気式にすることで、
- ケース内部の温度上昇を防ぐ
- GPUを高密度に配置可能
- 長時間のAI学習負荷でも安定動作
といったメリットを得られます。
🌏 国際規制とAI開発競争
アメリカの輸出規制は、中国の先端AI開発を抑制する目的で実施されていますが、この事例は規制の抜け穴を突いたものと言えます。
- NVIDIAのA100/H100クラスのGPUは輸出禁止
- ゲーミング向けGPUは規制外または緩い制限
- 高性能ゲーミングGPUをAI用に転用する手法が拡大
結果として、表向きはゲーミング市場向け製品を購入し、実態はAIデータセンターで使用するという流れが常態化しています。
📈 中国AI市場への影響
この魔改造手法により、中国のAI企業は以下の恩恵を受けています。
- 高性能GPUを正規規制を回避して入手
- サーバー用GPUより低コストで調達可能
- 短期間で大量のGPUクラスターを構築
一方で、こうした行為は米中間の半導体摩擦を激化させ、さらに厳しい輸出管理や追跡調査が行われるリスクも高まります。
🔮 今後の見通し
NVIDIAやAMDは、中国向けに規制対応版AIチップを投入する動きを見せていますが、性能制限モデルの需要は限定的です。
AI開発企業にとっては、少しでも高性能なGPUを入手することが優先され、結果的にこうした「改造ビジネス」が成長しているのです。
アメリカがこの流れをどこまで封じ込められるのか、そして中国がどのようにAIインフラを強化していくのか、2025年以降も目が離せません。
まとめ 📝
RTX 5090魔改造事件は、単なるハードウェア改造ではなく、国際的なAI競争と規制のせめぎ合いを象徴する出来事です。
この事例は、規制が必ずしも技術の流通を止められない現実を示しており、今後の半導体政策や国際取引のあり方にも大きな影響を与えるでしょう。