🇪🇺 GoogleがEU限定で検索結果を変更、背景には8.9億ユーロのDMA制裁金
Googleは2026年9月、EUのデジタル市場法(DMA)に対応するため、欧州のGoogle検索でホテルや航空券などを探した際の表示方式を大幅に変更しました。発端となったのは、欧州委員会が7月23日に下したDMA違反の決定です。欧州委員会は、Google検索がショッピング、ホテル、交通、スポーツなどで自社サービスを競合より目立つ位置に表示する「自己優遇」を行ったとして4億6000万ユーロ、さらにGoogle Playでアプリ開発者が利用者を外部のより安価な購入手段へ誘導することを制限したとして4億3000万ユーロ、合計8億9000万ユーロの制裁金を科しました。Googleはこれを受け、EU圏の検索結果を競合サービスに対してより中立的に見える形へ再設計することになりました。
DMAはGoogle、Apple、Meta、Amazon、Microsoft、ByteDanceなど巨大プラットフォームの一部サービスを「ゲートキーパー」に指定し、市場への入口を支配する立場を利用して自社サービスを有利に扱うことなどを制限するEU規則です。違反企業には原則として**全世界年間売上高の最大10%、違反を繰り返した場合は最大20%**の制裁金を科すことができ、命令に従わせるため平均日次売上高の最大5%に相当する定期的な制裁金を設定する仕組みもあります。Google検索については2025年3月の時点で欧州委員会が自己優遇に関する予備的見解を通知しており、1年以上にわたる対立の末に今回の正式な違反認定へ発展しました。

✈️ ホテル・航空券検索から便利な機能が消え「仲介サイト」が前面へ
最も大きく変わるのが旅行関連の検索です。従来のGoogle検索では、「パリ ホテル」「東京 ロンドン 航空券」のように検索すると、ホテルの料金・空室や航空便の価格などを検索画面上で比較し、そのまま事業者の予約ページへ進める専用機能が表示されていました。新方式ではこうしたGoogle自身の比較・予約機能を縮小し、Booking.comやExpediaのようなVSS(Vertical Search Service:特定分野に特化した検索・比較サービス)をより目立たせる方向へ変更されます。ロイターによると、Googleがテストした方式では1つのVSSを大きく表示し、さらに別の2サービスへのリンクを続けて表示する一方、従来のカルーセルからリアルタイム価格など一部の便利な情報が削られます。
変更によって起こる主な違いを整理すると、次のようになります。
- 従来: Google検索内でホテル・航空券の価格や空室・空席などを比較しやすい
- 変更後: 専門比較サイト(VSS)へのリンクを検索上部で目立たせる
- Google側の主張: 利用者が目的地へ到達するまでの手順が増え、検索体験が悪化する
- EU側の狙い: Googleが検索市場での支配力を使ってGoogle Hotelsなど自社サービスへ利用者を誘導することを防ぐ
- 競争上の変化: Booking.comやExpediaなどの仲介・比較サービスがGoogleとより対等に利用者を獲得できる可能性
- 対象地域: DMAが適用される欧州市場が中心で、EU圏外のGoogle検索には同じ変更を展開しない方針

🏨 「仲介業者を守って地元企業が不利に」GoogleとEUの主張は真っ向から対立
ここで興味深いのは、「Google対小規模事業者」という単純な構図ではないことです。Googleは、DMAへの対応で恩恵を受けるのはBooking.comやExpediaなどの巨大な仲介サービスであり、ホテル、航空会社、レストランなどへ直接送られるトラフィックが減少すると主張しています。ロイターによると、Googleは過去のDMA対応変更によって欧州企業への直接予約トラフィックが最大30%減少したと説明しています。GoogleのKnowledge & Information部門を率いるNick Fox氏も、今回の変更はネット仲介業者を有利にする一方で地域企業を犠牲にし、利用者が日常的に使ってきた機能を削除すると批判しています。ただし、この「30%」はGoogle側が示した数字であり、DMAそのものが欧州企業全体に30%の損失を与えたことを意味する独立した統計ではありません。
一方、欧州委員会の立場では問題の中心は「検索結果が便利かどうか」だけではありません。Google検索は欧州で長期間にわたり圧倒的な市場シェアを持ち、その検索画面でGoogle自身が提供するホテル、ショッピング、交通などのサービスだけを目立つデザインや上位表示で優遇すれば、競合企業が十分な規模へ成長する機会そのものを失う可能性があります。EUは2026年7月、別のDMA手続きでもGoogleに対し、競合検索エンジンや検索機能を持つAIチャットボットへ匿名化したGoogle検索データを公正な条件で提供することを具体化しました。さらにAndroidではGeminiなどGoogle自身のAIだけでなく競合AIアシスタントにも主要機能への相互運用性を確保するよう求めており、EUの政策は検索画面だけではなく「Googleが持つデータとOSという競争優位」そのものへ踏み込む段階に入っています。
⚖️ 「便利な独占」と「競争のある不便さ」――DMAが突き付ける難題
今回の変更は、巨大プラットフォーム規制が抱える難しさを象徴しています。Googleが検索、地図、ホテル、航空券、ショッピングを緊密に統合すれば、利用者にとっては検索回数やクリック数が減り、非常に便利になります。しかし、その利便性を生み出している企業が検索市場の入口そのものを支配していれば、競合サービスが利用者へ到達できなくなり、長期的には競争やイノベーションが失われる恐れがあります。反対にGoogleの統合機能を強制的に分離すれば、競争環境は改善しても「検索した瞬間に料金や空室が分かる」といった便利さが失われる可能性があります。DMAは短期的な検索体験の最大化よりも、複数企業が競争できる市場構造と利用者の選択肢を維持することに重点を置いた法律だと理解すると、GoogleとEUの主張がなぜ食い違っているのかが分かりやすくなります。
🔎 まとめ:Google検索は「答えを直接出す場所」から再びリンク集へ戻るのか
EUにおけるGoogle検索の変更は、単なる画面デザイン変更ではなく、インターネットの「入口」を誰が支配するのかという長年の競争政策が実際の製品体験にまで及んだ事例です。欧州委員会はGoogle自身と第三者サービスを公平に扱うことで競争を促進したい一方、Googleはその結果として利用者が余計な仲介サービスを経由し、地域企業への直接アクセスも減ると反論しています。しかも検索を巡っては、従来のウェブ検索だけでなくAI検索やGeminiなどのAIアシスタントまで競争政策の対象になり始めています。今回の欧州限定仕様が本当に競争を活性化するのか、それとも検索の利便性を下げるだけなのかは、VSSへのトラフィック、ホテルなどへの直接予約、利用者の行動が今後どう変化するかを見なければ判断できません。
参考・出典
欧州委員会「GoogleにDMA違反で8億9000万ユーロの制裁金」
Reuters「Google warns of lower quality as it revamps Europe search results to avoid EU fines」
欧州委員会「Digital Markets Actについて」
欧州委員会「GoogleのAndroid AI相互運用性・検索データ共有に関する措置」
欧州委員会「Google Searchデータ共有に関するDMA手続き」
欧州委員会「2025年のGoogleに対するDMA予備的見解」
