「生命はどこまで過酷な環境に適応できるのか?」――その問いに答えるかのように、北極の氷の中で驚くべき生命活動が確認されました。
スタンフォード大学やアラスカ大学を中心とする研究チームは、マイナス15度という極寒環境下でも活発に動き回る単細胞生物・珪藻類(けいそうるい) を発見したのです。

🔬 北極の氷から見つかった「生きた藻類」
研究チームは2023年夏、北極圏の12か所で氷床コアを採取。専用の船上顕微鏡で氷の中を観察すると、光合成を行う単細胞の藻類・珪藻類 が多数確認されました。
従来は「氷の中の珪藻類は休眠状態にある」と考えられていましたが、実際には氷の内部にある微細な液体の通路を、まるで氷上をスケートするように移動していた ことが分かりました。

❄️ 驚異の耐寒能力:マイナス15度でも活動
実験室で氷の環境を再現し、温度を徐々に下げて観察したところ、珪藻類は動きを止めるどころか、マイナス15度でも滑るように活発に移動 していました。
この温度は、真核細胞(核を持つ細胞)が動くことを確認できた史上最低の記録。
研究者のマヌ・プラカシュ准教授はこう驚きを語ります。
「珪藻類は想像を超えるほどタフで、極寒でも生き生きと動いているのです」

🐌 移動の仕組みは「粘液ロープ」
珪藻類の移動方法はユニークです。
- 手足や鞭毛で動くのではなく
- 粘液のロープを分泌し、それを引っ張って前進
これは「滑走運動」と呼ばれ、人間の筋肉運動と同じ アクチンとミオシンの仕組み に依存しています。
氷点下でもこの生物学的システムが機能するメカニズムはまだ解明されておらず、今後の研究テーマとなっています。

🌍 生態系における役割
氷の下の北極は、見た目の白い世界とは裏腹に、藻類によって鮮やかな緑色に彩られた「隠れた生命圏」 です。
プラカシュ氏は次のように強調します。
「珪藻類は氷の下で起きていることを制御する存在であり、食物連鎖の根幹を支えています」
つまり、彼らの活動は北極の生態系や氷の形成にまで影響している可能性があるのです。
📝 まとめ
- 北極の氷から発見された珪藻類は マイナス15度でも活発に活動
- 「滑走運動」という特殊な仕組みで氷の内部を移動
- 真核細胞の生命活動が確認された最低温度を更新
- 北極の食物連鎖・氷の構造に大きな影響を与えている可能性
極限環境でも生き抜く珪藻類の存在は、地球外生命探査や極限生物学の新たなヒント となるかもしれません。まさに「極寒の中の小さな奇跡」と言える発見です。

