2025年4月、中国・第四軍医大学(空軍軍医大学)の研究チームが、遺伝子を改変したブタの肝臓を脳死状態の人間に移植する世界初の実験に成功しました。この成果は、世界的権威のある学術誌『Nature』に掲載され、臓器提供を待つ多くの肝不全患者に大きな希望を与える内容となっています。

🔬背景:臓器不足と異種移植(ゼノトランスプランテーション)の挑戦
❓なぜブタの臓器?
- ブタは人間と臓器サイズが似ており、飼育・繁殖が容易なため臓器提供の候補として注目されています。
- 遺伝子操作技術の進歩により、拒絶反応を抑える遺伝子編集が可能となってきました。
❗臓器移植を待つ患者の現状
- 重度の肝不全は移植以外に根本的な治療法がありません。
- しかし、提供者不足により移植を受けられずに亡くなる患者も多数存在します。
これらの課題を解決するため、**「動物の臓器を人間に移植する」**という技術(異種移植)が国際的に注目を集めてきました。

🧬今回の実験のポイント:6つの遺伝子操作で拒絶反応を抑制
研究チームは、以下の2点を中心に計6つの遺伝子操作を行ったブタの肝臓を使用しました。
- 人間の免疫に過剰反応する遺伝子を除去
- 人間に近いタンパク質を作るためのヒト遺伝子を挿入
これにより、免疫拒絶反応(特に超急性拒絶)を抑えることが可能になりました。

🧪手術方法と結果:ブタの肝臓が10日間も機能!
🧠被験者は脳死状態の人間
この手術は倫理的配慮のもと、脳死と診断された患者の同意に基づき実施されました。
⚙️移植手法の工夫
- 元の肝臓はそのまま残し
- ブタの肝臓を腹腔(ふくくう)内の別の位置に設置
- 血管を接続して実際に血流を通す
という方法で行われ、リスクを最小限に抑えつつ機能評価が可能となりました。

10日間にわたる観察期間中、脳死患者に移植されたブタの肝臓は最後まで機能していました。肝臓を通る血流の速度は良好なまま維持され、脂肪の消化吸収や老廃物の排出に重要な胆汁や、血液中のタンパク質の多くを占めるアルブミンなどの産生も行われました。また、移植後には免疫細胞であるT細胞やB細胞の活性化も見られましたが、免疫抑制剤を適切に使用することで拒絶反応を回避できたと報告されています。以下の写真は、脳死患者に移植されたブタの肝臓が分泌した胆汁を、左から「移植から2時間後」「移植から2日後」「移植から3日後」の順で並べたもの。分泌量が増加していることがわかります。

📈移植されたブタの肝臓の機能状況
移植から10日間、ブタの肝臓は以下のように正常な肝機能を果たしました。
- ✅ 血流速度の維持
- ✅ 胆汁(脂肪の消化に必要)分泌の持続的な増加
- ✅ アルブミン(血中タンパク質)などの産生
- ✅ 免疫反応を抑制しつつT細胞・B細胞を適切に制御
💡実際に移植された肝臓が分泌する胆汁の量は、術後2日・3日と時間が経つごとに増加しており、肝機能が継続していた証拠となっています。
⚠課題:健康な体内での実験ゆえに「応用段階」はこれから
今回の被験者は、もともと自分の肝臓が正常に働いていたため、実際の肝不全患者でも同じように機能するかは未検証です。
とはいえ、
- 遺伝子組み換えによる拒絶反応の抑制
- ブタ肝臓の短期的な機能維持
など、今後の臨床応用へ向けた重要な一歩となりました。
🌍国際的な評価と今後の可能性
スペイン国立移植機関のラファエル・マテサンツ氏は次のようにコメント:
「これは世界で初めてブタの肝臓が人間の体内で機能した例です。将来的には、最終的な移植を待つ間の“つなぎ”としてブタの肝臓を使うような治療も可能になるかもしれません。」
これまでブタの心臓・腎臓の移植では成功事例がありましたが、より複雑な肝臓での成功は医療界にとって大きなマイルストーンです。
🧭まとめ:ブタの肝臓移植は「夢物語」から現実へ
ポイント | 内容 |
---|---|
🧪 実験内容 | 遺伝子組み換えブタの肝臓を脳死者に移植 |
⏱ 機能期間 | 10日間、胆汁分泌やタンパク合成が確認される |
💉 拒絶反応 | 免疫抑制剤で制御可能、超急性反応なし |
🌱 今後の展望 | 肝不全患者への「つなぎ治療」や完全移植の可能性 |
臓器移植を待ち望む人々にとって、「もう間に合わないかもしれない」という不安を打ち消す、新たな選択肢となる日が近づいています。
🔗参考文献・関連リンク
- 📘 Gene-modified pig-to-human liver xenotransplantation | Nature
- 🧬 Pig Liver Successfully Transplanted Into Human Patient in World First – ScienceAlert
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