チョコレートの濃厚で複雑な風味は、主原料である カカオ豆の発酵 によって生まれます。ところが、この発酵は農園ごとの自然環境に依存しており、風味の質が安定しにくいのが長年の課題でした。
そんな中、イギリスの ノッティンガム大学 を中心とした国際研究チームが、カカオ発酵を科学的に解析。さらに、特定の微生物を組み合わせることで、狙った風味を再現できることを実証しました。
👉 研究論文(Nature Microbiology)
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🔍 発酵プロセスの謎を解明
研究チームは、コロンビアのカカオ主要生産地(サンタンデール、ウイラ、アンティオキア)で発酵の詳細を調査。
- サンタンデール産・ウイラ産 → ナッツやベリー、コーヒーのような複雑で豊かな風味
- アンティオキア産 → シンプルで苦味が強い風味
興味深いのは、カカオ豆そのものの遺伝的な違いはほとんどなかったこと。
つまり、風味の差を生んでいるのは発酵過程そのもの であることが明らかになったのです。
📸 以下は発酵中のカカオ豆の変化(0時間 → 168時間後)。発酵が進むにつれ、豆の色が白から茶色へと変化していく様子が確認されました。

🧫 鍵を握る“微生物のチーム”
さらに研究者は、メタゲノム解析 で発酵に関わる微生物を徹底調査。
その結果…
- Torulaspora属 や Saccharomyces属 の酵母菌が、上質なチョコレートの香りや味わいに大きく寄与していることを発見。
そこでチームは、風味形成に重要な 9種類の微生物(細菌5種+真菌4種) を厳選し、人工的に構築した「合成微生物群集(SYNCOM)」を作成しました。

🏭 実験で再現された“理想のチョコレート”
このSYNCOMを使ってカカオ豆を実験室で発酵させたところ…
- 自然発酵と同様の pH変化や微生物動態 を再現
- 専門のテイスターが試食した結果、高級チョコレートと同等の風味 が確認されました
つまり、これまで“自然まかせ”だったカカオ発酵を、科学的にコントロールできる時代 が訪れたのです。

さらにメタゲノム解析という手法で微生物の遺伝情報を網羅的に調べたところ、特にTorulaspora属やSaccharomyces属といった酵母菌が、高品質なチョコレート特有の繊細な風味の形成に強く関わっていることが突き止められました。この知見を基に、研究チームは風味形成に重要と考えられる9種類の微生物(細菌5種と真菌4種)を選び出し、「合成微生物群集(SYNCOM)」と名付けたスターターカルチャーを設計しました。そして、このSYNCOMを用いて実験室の管理された環境下でカカオ豆を発酵させたところ、自然発酵で起こるpHの変化や微生物の動態を見事に再現できました。こうして作られたカカオマスを専門のテイスターが評価した結果、サンタンデール産やウイラ産の天然の高級チョコレートと同様の、優れた風味特性を持つことが確認されました。

論文の共著者で植物遺伝学者であるデービッド・ゴポールチャン氏は「この研究技術が将来的には消費者のために、目新しくて胸が躍るような新しい風味を生み出すことにつながることに期待しています。最終的に私たちが目指しているのは、チョコレートの品質を向上させることです」とコメントしました。
🌟 今後の可能性
共著者のデービッド・ゴポールチャン氏はこう語ります。
「この技術は、チョコレートの品質向上だけでなく、これまでにない新しいフレーバーの創出にもつながるでしょう」
✅ 消費者はより安定した品質のチョコを楽しめる
✅ 生産者は発酵の失敗を減らせる
✅ 将来的には“カスタムフレーバー”のチョコも可能に?
まさに、チョコレートづくりに革命をもたらす研究といえます🍫✨
まとめ
- チョコの風味は 発酵中の微生物活動 が決め手
- 特定の微生物を組み合わせた「SYNCOM」で風味を再現
- 今後は 安定品質+新フレーバー開発 に期待大
チョコ好きにとっては夢のような話ですが、科学が“おいしさ”を解き明かす時代が本格的に始まっています。

