SNSはかつて「多様な人々が自由に議論する健全な公共圏」として期待されていました。しかし近年は、ユーザーが同じ意見ばかりを見てしまうフィルターバブルや、偏った思想が強化されるエコーチェンバーが社会問題になっています。
こうした問題を改善するために数多くの介入策(アルゴリズム調整や表示変更など)が提案されてきましたが、新しい研究では、SNSに構造的に組み込まれた問題は、いかなる手段を講じても完全に修正できない可能性があると指摘されています。
この記事では、最新研究の内容を深く掘り下げるとともに、背景・他国の事例・法規制の動向なども交えて解説します。

SNSはなぜ「偏った世界」へ向かってしまうのか?🌐
SNSが登場した2000年代初期は「インターネットが民主主義を前進させる」という期待が強くありました。しかし現在はその反動として、次のような問題が顕著です。
- 同質的な人々が集まりやすい構造(コミュニティ分断)
- 怒りや衝突がエンゲージメントを生む仕組み
- 少数のインフルエンサーへ影響が集中
- 個人の世界観が強化され続ける情報環境
SNSの「いいね」「リポスト」「フォロー」といった基本構造が、感情的な反応や政治的対立を自然に増幅する仕組みになっている点が大きな問題です。

最新研究:AIペルソナによる大規模シミュレーションで判明したこと🤖📊
アムステルダム大学の研究チームは、従来のSNS研究で使用されてきた「観察データ」ではなく、大規模言語モデル(LLM)とエージェントベースモデルを組み合わせた新しいシミュレーション手法を採用しました。
● AIペルソナとは?
研究者たちは、アメリカの有権者データ(趣味・価値観・居住地など)をもとに、次のようなテキスト設定からなる仮想人格を大量に生成。
「あなたの名前はボブ。マサチューセッツ出身。趣味は釣り。」
これらのAIが架空のSNS上で以下を実行:
- フィードの閲覧
- 投稿やリポスト
- フォロー行動
- 他ユーザーのプロフィール閲覧
つまり、“AIがSNSを使う世界”を作り、社会実験を行ったのです。

実験した6つの介入戦略🛠️
SNSの偏りや対立を抑えるため、研究チームは以下の6つの戦略をシミュレーションしました。
- フィードをアルゴリズム式から時系列・ランダムに変更する
- センセーショナルな投稿の可視性を減らす(逆エンゲージメント最適化)
- 多様な視点を強制的に表示する(反対意見提示)
- 怒りではなく相互理解を促す投稿を優先表示する
- いいね数・リポスト数・フォロワー数などの“社会的証明”を非表示にする
- プロフィールを匿名的にし、アイデンティティ情報を減らす
結果:どの戦略も問題を根本的に解決できず❌
驚くべきことに、6つの戦略を適用しても「フィルターバブル」「影響力の集中」「極端な主張の増幅」は再発しました。
● 一部の施策は逆効果になるケースも
例:
- 時系列フィード
→ インフルエンサーの支配を抑えたが、極端な投稿の拡散はむしろ加速。 - 相互理解コンテンツの優先表示
→ 党派性とエンゲージメントの関係は弱まったが、少数アカウントへの影響集中が悪化。
研究チームは、
「SNSの問題はアルゴリズムの設定ではなく、SNSというシステムの“基本構造”から生まれる自己増幅的フィードバックループである」
と結論づけています。

なぜ「SNSそのもの」に問題があるのか?🔍
SNSには、次のような構造上の特徴があります。
- 再投稿(共有行動)は強い感情を伴いやすい
- 怒りや対立はアルゴリズムが意図せずとも拡散されやすい
- フォロー関係は政治的に近いユーザーを結びつける傾向がある
- 投稿・拡散・フォローが互いに影響し合い、ネットワークを偏らせる
SNSが持つこれらのダイナミクスそのものが、偏りと増幅の温床になっています。
つまり、ユーザーが良識的でも、プラットフォームが善意でも、構造が偏りを生むという根本問題が示されています。
他国ではどんな対策が取られている?🌍
■ EUの「デジタルサービス法(DSA)」
EUはアルゴリズム透明化・リスク評価を義務化し、SNSに対して以下を要求しています。
- 推奨アルゴリズムの説明
- 有害コンテンツのリスク評価
- 独立監査
- ユーザーに“非アルゴリズムフィード”を選択させる義務
しかし実際には、偏りや分断の改善は限定的であり、構造的な問題に手が届いていないとも指摘されています。
認知科学が示すもう一つの問題:人間は「偏った情報」を好む📘
最新の心理学・認知科学では、人間は本能的に:
- 自分と同じ意見を信じる
- 異なる意見を避ける
- 快感を得る情報に反応しやすい
とされ、SNSはこの傾向をさらに強める装置になっています。
● つまり、SNSは「人間の弱点を増幅するシステム」
どれだけアルゴリズムを改善しても、ユーザー側の心理傾向が変わらない限り、分断は再発しやすいというわけです。
では、SNSの未来はどうなる?🧭
研究チームは次のような示唆を残しています。
● ① SNSの構造を抜本的に作り直す必要がある
既存SNSの“拡散・フォロー・エンゲージメント”構造が問題の源である以上、改善は限定的。
● ② 新しい設計思想のSNSが求められる
- 拡散速度を意図的に抑える
- 感情的投稿の影響力を抑制
- 小規模コミュニティ中心のネットワーク設計
- ランダム接続による偏り緩和
● ③ ユーザー教育・メディアリテラシーが必須
テクノロジーだけに頼っても解決できない。
まとめ:SNSの構造的問題は「簡単には直らない」⚠️
今回の研究は、SNSの問題が「アルゴリズムの調整」で解決できるほど単純ではないことを示しました。
- エコーチェンバー
- フィルターバブル
- 怒りの増幅
- 影響力の集中
これらはSNSの根本的な仕組みと、ユーザーの心理特性によって自然発生する現象であり、部分的な介入では改善しても、再発が避けられないという厳しい現実があります。
今後必要なのは、
「SNSを前提に世界を変える」のではなく、
「SNSそのものを作り変える」
という発想かもしれません。
📚 参考・出典(本文中のリンクは削除済み)
- AI社会シミュレーション研究(大規模言語モデル×エージェントベースモデリング)
- アムステルダム大学研究チームによるSNS介入戦略の分析
- フィルターバブル・エコーチェンバーに関する社会学・メディア論研究
- EU「デジタルサービス法(DSA)」関連資料
- SNSにおける政治的分断と心理学研究
- GIGAZINE 各種関連記事(怒りの伝播、アルゴリズム依存、偏りの可視化など)
