ここ十数年、「昔より明らかに暑くなった」と実感している方も多いのではないでしょうか。
実際、地球の気温上昇は2010年以降に加速しており、その理由は温室効果ガスの増加だけでは説明しきれないと、気候科学者たちは指摘しています。
そして今回、ノルウェーの研究者を中心とする国際チームが発表した最新の研究では、中国をはじめとする東アジア地域の「大気汚染の改善」が、気候変動を一時的に加速させた可能性があることが明らかになりました。

🏭 「汚染物質の減少」が逆に温暖化を加速させた?
この研究では、東アジア地域における大気汚染の改善と地球温暖化の加速の関係に焦点を当て、2013年以降の中国の空気質改善が、地球規模の気温上昇に影響を与えている可能性が高いという仮説のもと、詳細な気候モデルとシミュレーションを実施しました。
主な要因:
- 大気中のエアロゾル(PM2.5・SO₂・NO₂など)は太陽光を遮ることで冷却効果をもたらしていた
- しかし、近年の厳格な環境対策により、これらの粒子状物質が大幅に削減されている
- その結果、太陽光の反射量が減少し、一時的に気温上昇が進行

📉 中国での汚染物質削減のインパクトとは?
中国では2013年から10年間で、以下のような劇的な改善が報告されています。
- ✅ PM2.5(微小粒子状物質):66.5%減少
- ✅ NO₂(二酸化窒素):58.9%減少
- ✅ SO₂(二酸化硫黄):88.7%減少
さらに、東アジア全体で見てもSO₂排出量は2013年から約75%削減されており、これは気温上昇が加速した時期と一致します。

🔬 研究手法とその結果
ノルウェー国際気候・環境研究センターのビョルン・サムセット氏らのチームは、世界中の8つの気候モデルを用いて160回以上のシミュレーションを実施。その結果──
「東アジアにおける大気汚染の改善により、約**0.07℃**の気温上昇が地球規模で進んだ」
という結論が導き出されました。
一見すると小さな数値ですが、2010年以降における予測値(+0.23℃)を**実際の上昇値(+0.33℃)**が上回った要因としては、十分な説明力を持つと評価されています。
分析の結果、東アジアにおける大気汚染改善により、約0.07℃の地球温暖化が余計に進行していることがわかりました。これは、1850年以降に上昇した約1.3℃と比較すると小さなものに思えますが、地球全体の気候パターンに影響するエルニーニョ現象などによる年ごとの変動を取り除けば、2010年以降の地球温暖化の加速を説明するには十分です。これまでの長期的な傾向に基づけば、2010年以降の気温上昇は約0.23℃と予想されていましたが、実際の気温上昇は約0.33℃に達しました。この0.1℃の余計な上昇は、東アジアにおける大気汚染改善によっておおむね説明できるそうで、ここに海運業界の硫黄規制強化などその他の要因も関連しているとのこと。

☁️ 汚染物質の減少がもたらす「雲と太陽光」の変化
大気中のエアロゾルは以下のような間接的な冷却効果も持っていました:
- ☁️ 雲粒の反射率を高め、より多くの太陽光を宇宙に跳ね返す
- 🌥 汚染物質が太陽光を遮ることで地表の加熱を抑える
- 🌊 東アジアから北太平洋へと拡散する粒子が太平洋の雲構造に影響
今回の研究では、北太平洋での温暖化傾向が特に強く表れており、これは衛星データでも確認されている現象と一致しています。

🤔「汚染のままの方が良かったのでは?」という疑問に答える
この研究結果から「汚染物質が冷却効果をもたらすなら、むしろ汚染は残しておいた方が良いのでは?」と考える人もいるかもしれません。
しかし、大気汚染は気候変動以上に深刻な健康リスクを伴います。
- 🫁 呼吸器疾患や心血管病のリスクを上昇
- 👶 子どもの発達や高齢者の健康にも悪影響
- 📉 WHOによれば、毎年700万人以上が大気汚染関連で早死しているという統計も
つまり、汚染の抑制は「必要不可欠」であり、その副作用としての温暖化加速には別の形で対応するべきだというのが、研究チームの立場です。
🔮 今後に向けて:温室効果ガスの削減こそが本質的対策
サムセット氏は次のように述べています:
「地球温暖化の本質的な原因は依然としてCO₂などの温室効果ガスです。大気汚染の削減は正しい選択でしたが、それによって失われた“冷却バリア”が、近年の温暖化加速を可視化しているだけなのです。」
さらに、こうも指摘しています:
- 🌡 温室効果ガスは数世紀にわたり地球の気候に影響を与える
- ☁ 一方で、エアロゾル(汚染物質)は数日~数週間で大気から消失する
- 🚨 つまり、冷却効果を失ったことで一時的に温暖化が強調された形
✅ まとめ:地球温暖化と大気汚染改善、その複雑な関係性
今回の研究は、「空気がきれいになったこと」が一因で地球温暖化が加速している可能性があるという、皮肉でありつつも重要な知見を提供しました。
しかしこれは「汚染すべき」という話ではなく、むしろ今後の気候政策において、
- 🌍 温室効果ガス削減を主軸に据える
- ⚖ 大気汚染対策とのバランスをどう保つか
- 🔬 科学的データに基づいた多面的な判断
が強く求められることを示唆しています。