米ニュージャージー州で2025年7月6日、2019年型Tesla Model 3が一時停止標識で停止せず交差点へ進入し、Honda Civicと衝突する死亡事故が発生しました。Civicを運転していた82歳のStephen Field氏が死亡し、Model 3の乗員も負傷しました。当初は「一時停止義務を怠った車による事故」として報じられていましたが、その後、米道路交通安全局(NHTSA)へTeslaが提出した事故データと現地の事故情報をElectrekが照合し、衝突前にTeslaのレベル2運転支援システムが作動していたことが判明しました。ただし公開資料では具体的なソフトウェアや事故直前の詳細が伏せられているため、「FSD(Supervised)が一時停止標識を無視した」と現時点で断定できない点には注意が必要です。

🚨 一時停止せず交差点へ、事故時は運転支援システムが作動
事故は2025年7月6日午後6時57分ごろ、ニュージャージー州アトランティック郡Buena Vista TownshipのCounty Route 671とChestnut Avenueの交差点で発生しました。ニュージャージー州警察によると、Model 3は一時停止標識で停止せず、左折していたCivicと衝突。Field氏が死亡しました。その後のNHTSAデータでは、事故車が2019年型Model 3であり、対象となるレベル2運転支援機能が事故前に作動していたことが確認されています。一方、公開されたデータではシステムの具体的なバージョンや事故状況などが企業秘密として扱われているため、ドライバーがアクセルなどでシステムへ介入していたのか、車両側がどのように標識を認識していたのかまでは明らかになっていません。
この事故がNHTSAへ報告された背景には、2021年から続く「Standing General Order」と呼ばれる事故報告制度があります。2025年6月に発効した改訂版では、レベル2 ADASが衝突前30秒以内に使用され、死亡、エアバッグ展開、病院への搬送、歩行者などの交通弱者との衝突が発生した場合、対象メーカーに報告義務があります。公開データにはメーカー、車種、モデル年、事故時期、道路状況などが含まれますが、個人情報や企業秘密として認められる情報は公開版から削除されます。そのため「Teslaが任意に事故情報のほぼすべてを隠している」と単純化するより、NHTSAが公開するデータ自体に法的な非公開情報が含まれ得る制度として理解する必要があります。

🤖 「Full Self-Driving」という名称でも実際はレベル2の運転支援
今回の事故を理解するうえで重要なのが、Teslaの「Full Self-Driving(Supervised)」という名称と、自動運転レベルは別物だという点です。Tesla自身も現在、FSD(Supervised)をSAEレベル2として位置付けています。レベル2では車両がアクセル・ブレーキとステアリングの両方を継続的に制御できますが、運転環境を監視して必要な場合に介入する責任はドライバーに残ります。Teslaのマニュアルにも、FSDは交差点、一時停止標識、信号などへ対応する一方、システムの判断に依存せず、ドライバーが常に道路を監視する必要があると明記されています。

今回については、公開情報だけではどの機能が作動していたのか確定できません。TeslaにはFSDとは別に「Traffic Light and Stop Sign Control」があり、対応車ではTraffic-Aware Cruise ControlやAutosteerと組み合わせ、一時停止標識や信号を検出して減速・停止する機能が提供されています。したがって「一時停止標識に対応できるのはFSDだけなので、事故時はFSDだった」と断定するのは正確ではありません。Tesla自身も機能の有無や挙動はモデル年、ハードウェア、地域、ソフトウェアバージョンなどによって異なると説明しています。
事故について現時点で確認できる事実と、まだ確認できない点を分けると次のようになります。
- ✅ 2019年型Model 3が一時停止せずCivicと衝突した
- ✅ Civicのドライバーが死亡した
- ✅ 衝突前にレベル2運転支援システムが作動していた
- ❓ FSD(Supervised)だったのか、別のADAS機能だったのか
- ❓ 一時停止標識を車両が正しく認識していたのか
- ❓ ドライバーによるアクセル・ステアリングなどの介入があったのか
- ❓ 事故時のソフトウェアバージョンや詳細な制御状態

🛑 2022年には「ローリングストップ」を巡る問題も
Teslaと一時停止標識を巡っては過去にも問題がありました。2022年にはFSD Betaに、一定条件を満たした一時停止交差点で完全停止せず、低速で通過する「rolling stop」を許容する機能が存在したことから、NHTSAとの協議を経て約5万4000台がリコール対象となりました。TeslaはOTAアップデートによってこの機能を無効化しています。今回のニュージャージー州の事故ではNHTSAデータに約4mph(約6.4km/h)という低速の情報が含まれるとElectrekは報じていますが、速度が似ているというだけで2022年の不具合と同じ原因だったとは判断できません。事故原因を特定するには、標識認識、ブレーキ指令、ドライバー入力などの詳細な車両データが必要です。
Teslaの現在のマニュアルも、FSD(Supervised)がまれに一時停止標識や信号に対して適切に減速・停止できない可能性を明記しています。そのため、交差点で停止・進行する最終判断をシステムへ任せず、必要に応じて即座に介入するようドライバーへ求めています。これは「FSD」という名称から連想されやすい完全自動運転とは重要な違いで、システムが高度になってもレベル2である限り、人間が監視ループから外れることを前提としていません。

🔍 NHTSAはFSDの「交通違反そのもの」をすでに調査中
今回の事故をより重要にしているのが、NHTSAがTeslaのFSDについて別の安全調査を進めていることです。NHTSAのOffice of Defects Investigationは2025年10月、FSD(Supervised)やFSD Betaが交通法規に反する運転を行う可能性について予備調査「PE25012」を開始しました。調査開始時点でNHTSAは、FSD作動中のTeslaが赤信号の交差点へ進入して衝突したStanding General Order報告を6件確認し、そのうち4件では負傷者が報告されたとしています。また、対向車線への進入や、右左折専用レーンから直進するなどの報告も調査対象になっています。
この調査で重要なのは、単に「人間が監視していなかったか」だけではなく、FSDが予想外の動きをした際、人間が安全に介入できる十分な時間や警告があったのかまで調べていることです。レベル2では法的・運用上の責任が人間側に残りますが、運転支援が高度になるほどドライバーがシステムを信頼しやすくなり、突然の誤判断に短時間で対応しなければならないという「人間と自動化の役割分担」が新たな安全課題になります。なお、NHTSAへ提出された事故報告は潜在的な問題を発見するためのデータであり、運転支援システムが作動していたという事実だけで、そのシステムが事故原因だったと証明されるわけではありません。NHTSA自身も報告データの性質や限界を理解した上で分析する必要があると説明しています。
🔎 まとめ:焦点は「ADAS作動中」から「なぜ停止しなかったのか」へ
今回の死亡事故で確認された重要な事実は、Model 3が一時停止標識で停止せず死亡事故を起こし、その直前にレベル2運転支援システムが使用されていたことです。しかし公開資料だけでは、FSDだったのか別のTesla ADASだったのか、車両が標識を認識していたのか、ドライバーがどのような操作を行ったのかまでは確定していません。今後の焦点は単に「自動運転中だったか」ではなく、車両とドライバーが事故直前の数秒間にそれぞれ何を認識し、どのような制御を行っていたのかです。FSDを含む高度なレベル2運転支援が普及するほど、システム性能だけでなく、ドライバー監視、警告方法、事故データの透明性を含めた安全設計の重要性も高まっていくことになります。
参考・出典
Electrek「A Tesla ran a stop sign and killed a man, record confirms Full Self-Driving/Autopilot was on」
Electrekの記事
NHTSA「Standing General Order on Crash Reporting」
NHTSAの事故報告制度
NHTSA「Traffic safety violations while Full Self Driving (FSD) is engaged」
NHTSAのFSD調査資料
Tesla「Full Self-Driving (Supervised)」
Teslaオーナーズマニュアル
Tesla「Traffic Light and Stop Sign Control」
Teslaの信号・一時停止標識制御機能
Tesla「About Self-Driving」
Teslaの運転支援機能について
