失業は出産を遠ざける?ノルウェー研究で判明した「女性の失職は第1子、男性の失職は第2子」に響く違い

失業は出産を遠ざける?ノルウェー研究で判明した「女性の失職は第1子、男性の失職は第2子」に響く違い #news
失業は夫婦の出産計画にどう影響するのか。ノルウェーの行政記録研究で、女性の失職は第1子、男性の失職は第2子の出生確率を低下させることが判明しました。男女差の背景、経済的不安、福祉制度、少子化対策への示唆を解説します。

👪 失業は収入だけでなく「家族をつくる準備」を揺さぶる

仕事を失うことは、毎月の収入が減るだけの問題ではありません。再就職できる時期が分からない不安や、住宅購入、結婚、出産といった長期計画の見通しを失わせ、夫婦や同居パートナーの意思決定にも影響します。ノルウェーの行政記録を用いた新たな研究では、勤務先の閉鎖による失職がカップルの出生行動を抑える一方、影響の現れ方は男女と「何人目の子どもか」によって異なることが示されました。女性パートナーの失職は主に第1子を持つ段階、男性パートナーの失職は主に第2子へ進む段階で負の影響を及ぼしていました。

研究チームは、2005年から2017年までのノルウェーの雇用者登録簿と人口登録簿を照合し、15~50歳の夫婦や同居カップルを分析しました。通常の失業には本人の能力、健康状態、家庭事情などが影響するため、失業と出生率の因果関係を見分けることは簡単ではありません。そこで研究では、本人の選択とは比較的無関係に発生する「事業所の閉鎖」を雇用ショックとして利用し、閉鎖を経験した本人またはパートナーが、その後3年以内に第1子・第2子を持つ確率を比較しました。2008年前後の世界金融危機も含まれますが、社会保障の手厚いノルウェーでも影響が確認された点が注目されています。

📊 女性の失職は第1子、男性の失職は第2子に影響

分析によると、女性が勤務先の閉鎖によって仕事を失った場合、そのカップルが第1子を持つ確率は1.82パーセントポイント低下しました。この影響は、失職時点の世帯収入を調整した後も残りました。一方、男性の失職は第1子には明確な影響を示さなかったものの、第2子を持つ確率を2.01パーセントポイント低下させました。女性の失職については、第2子への統計的に明確な影響は確認されていません。

主な結果を整理すると、次のようになります。

  • 女性が失職した場合:第1子の出生確率が1.82ポイント低下
  • 男性が失職した場合:第2子の出生確率が2.01ポイント低下
  • 女性の失職と第2子:明確な影響は確認されず
  • 男性の失職と第1子:全体では明確な低下が確認されず
  • 所得の低い世帯:特に第2子をめぐる失職の影響を受けやすい傾向

「1.82%減」ではなく「1.82パーセントポイント減」である点には注意が必要です。たとえば元の出生確率が40%なら38.18%になることを意味し、研究者によると女性失職による第1子への影響は相対的には約4.6%の低下に当たります。数字だけを見ると小さく感じられますが、多数のカップルに広がれば出生数全体には無視できない差となります。

🧠 なぜ男女で影響する「出産の段階」が違うのか

女性の失職が第1子に影響した背景には、現代のノルウェーでは女性の就業が出産の妨げではなく、むしろ親になるための安定した基盤と認識されている可能性があります。以前は「仕事を失えば出産によるキャリアの機会費用が下がるため、子どもを持ちやすくなる」という考え方もありました。しかし、共働きが一般的な社会では、女性自身の安定した雇用、育児休業の権利、復職先の存在が、第1子を持つ準備の一部になります。仕事を失うと収入だけでなく、将来の生活設計や職業上の立場を立て直す必要が生じ、親になる決断を先送りしやすくなると考えられます。OECDも、仕事と家庭を両立できる国では女性の就業率と出生率がむしろ正の関係を持ち得ると説明しています。

一方、男性の失職が第2子に強く表れた理由について、研究は一つの原因を確定していません。第1子を持つかどうかは年齢や人生設計など複数の要因に左右されますが、第2子はすでに存在する育児費用、住居の広さ、教育費、家事負担を踏まえた「家族をさらに拡大できるか」という判断になります。低所得世帯ほど影響が大きかったことから、男性の収入減少や再就職への不安が、2人目に進む余力を失わせた可能性があります。また、男性が家計を支えるべきだという規範が残る場合、失職は心理状態や夫婦関係にも影響し、将来計画を慎重にさせることがあります。ただし、こうした説明は研究結果から考えられるメカニズムであり、男女に固定された役割を証明したものではありません。

🌍 福祉国家ノルウェーでも影響、他国ではさらに大きい可能性

ノルウェーは失業給付、育児休業、保育サービスなどが比較的充実し、失職による収入減を社会制度が緩和しやすい国です。それでも出生行動に差が現れたことは、現金給付だけでは雇用喪失による不確実性を完全には取り除けないことを示唆します。失業給付によって当面の生活費を補えても、「次の仕事はいつ決まるのか」「育児と再就職を同時に進められるのか」「数年後も安定して暮らせるのか」という長期的な見通しは回復しないためです。研究者は、社会保障が弱く非正規雇用や長期失業が多い国では、出生への影響がより強くなる可能性があると指摘しています。

関連研究でも、雇用の不安定化は家族形成を遅らせる可能性が報告されています。

  • フランスでは、解雇される不安が増した50歳未満の労働者で、出生確率が3.7ポイント低下
  • ドイツでは、景気後退期に職を失った女性ほど第1子出生率の低下が大きいとの研究
  • オーストリアでは、単なる無職期間より、キャリア職から本人の意思に反して排除されることが長期的な出生減少と関連
  • 欧州全体では、2008年の金融危機後に経済回復が始まっても出生率低下が続いた地域が多い

これらは、出生判断が現在の所得だけでなく、雇用の継続性、将来への信頼、人生を自分で計画できる感覚に左右されることを示しています。OECD加盟国の平均合計特殊出生率は1960年の3.3から2022年には1.5まで低下しており、住宅費や育児費だけでなく、若年層の労働市場と将来不安が重要な政策課題になっています。

⚠️ 失業すれば必ず出産を諦めるという研究ではない

今回の研究は、個々のカップルが失職後にどのような会話をし、なぜ出産を延期したのかを直接聞き取ったものではありません。行政記録から出生の発生を追跡した研究であり、収入、心理的ストレス、再就職活動、健康状態、関係悪化などの経路を完全に分離することはできません。また、事業所閉鎖後の3年間を中心とした結果であるため、出産を一時的に延期しただけなのか、生涯の子どもの数そのものが減ったのかは別問題です。失職経験者が数年後に出産時期を取り戻す可能性もあり、研究結果を「失業によって子どもを持てなくなる」と単純化すべきではありません。

さらに、ノルウェーは共働き世帯と婚外出生が比較的多く、社会保障制度やジェンダー規範も日本を含む他国とは異なります。男女差を生物学的な違いとして解釈するのではなく、社会の雇用制度、家計内の所得配分、育児休業の条件、出産順位によって失職の意味が変わると捉える必要があります。ノルウェーでは手厚い家族政策があっても2010年代に出生率が低下しており、OECDは客観的な経済状況だけではなく、人々が感じる不安、親になることへの期待、社会規範も関係しているとしています。

✅ まとめ:少子化対策には雇用の「将来を見通せる安心」が必要

今回の研究は、失業の出生への影響が男女一律ではなく、女性の失職は親になる入口である第1子、男性の失職は家族を拡大する第2子に強く現れる可能性を示しました。重要なのは、単に所得が減るから出産しなくなるのではなく、雇用が人生の順序、安定感、将来を計画できる感覚を支えているという点です。

少子化対策として出産一時金や児童手当を増やすだけでなく、若い世代が失職後に短期間で再就職できる仕組み、非正規雇用から安定雇用へ移れる環境、育児休業の権利を転職後も失いにくい制度が重要になります。出生を直接促す政策よりも、「子どもを持っても将来が壊れない」と夫婦が判断できる労働市場と社会保障を整えることが、より長期的な対策になると考えられます。

参考・出典

  • Social Science Research「Job loss and births: A couple-level study of Norwegian plant closures」
  • OECD「Fertility trends across the OECD: Underlying drivers and the role for policy」
  • OECD「Exploring Norway’s Fertility, Work, and Family Policy Trends」
  • CEPR / VoxEU「The family consequences of job insecurity: Fertility and marriage」
  • Demography「Job Displacement and First Birth Over the Business Cycle」
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