多くの人は「ミイラ」と聞くと古代エジプトの黄金の棺を思い浮かべます。しかし最新の研究によって、人類が最初に“意図的なミイラ”を作ったのはエジプトではなく、1万年以上前の東南アジアと中国南部だった可能性が示されました。
しかもその方法は、樹脂や包帯ではなく──
“薫製(スモークドライ)”🔥。
火と煙でゆっくり乾燥させてミイラ化する、まさに“スモークミイラ”が存在していたのです。

🔎 ミイラの常識が覆る:エジプトより5000年以上古い可能性
これまで「世界最古の人工ミイラ」は次の文化だと考えられていました。
- 🏜️ チリ・ペルーのチンチョロ文化(約7000年前)
- 🏺 古代エジプトの人工ミイラ(約5000年前)
ところが最新研究では、約1万〜1万2000年前の東南アジア・中国南部に、意図的なミイラ化の痕跡が存在することが明らかになりました。
人類が想像以上に早く“遺体を保存する技術”を持っていたことになります。

🧪 どのように判明したのか?骨の温度履歴を読み取る最新分析
研究チームは、中国南部・ベトナム北部・インドネシアなど計11カ所から発掘された69体分の人骨を調査しました。
使われた手法は以下:
- X線回折(XRD)
→ 500℃以上の高温で起きる骨の構造変化を検出 - フーリエ変換赤外分光法(FTIR)
→ 低温で起こる化学的変化を検出
その結果、信頼性の高い64体のうち、84%に“熱にさらされた痕跡”が確認されました。
さらに──
- 骨の変色(低温での長時間の加熱)
- すすの付着
- 切断痕
などが見つかり、火と煙を使って「意図的に乾燥させていた」証拠が揃いました。

🧍♂️ なぜ遺体は「胎児のように丸められていた」のか?
これまで東南アジア各地の遺跡では、
- 抱え込むような姿勢
- 縛られて固定された形跡
- 一部の骨が軽く焼けた痕跡
といった特徴が多く見られ、理由は長年不明でした。
しかし今回の分析から、
「薫製している間、遺体はうずくまった姿勢で縛られていた」
という解釈が最も自然であると判明。
つまり、火の上に長期間つるし、崩れないように固定するための姿勢だったのです。

🌋 現代にも残る類似の文化:ニューギニアのダニ族
研究者たちは、現代まで薫製ミイラの慣習を続けてきたニューギニア高地・ダニ族の事例に注目しました。
ダニ族は──
- 遺体を胎児の姿勢に固定
- 数週間〜数ヶ月、煙の中でじっくりと薫製
- 完全に乾燥した後、家の中に安置して祖先として祀る
という儀式を行います。
姿勢・火の使い方・目的のすべてが、今回見つかった古代の痕跡と驚くほど一致しています。
🌦️ なぜ薫製だったのか?熱帯ならではの“保存技術”
エジプトや南米の砂漠では乾燥した気候が自然ミイラを生むことがあります。しかし、
東南アジア・中国南部は高温多湿で腐敗が非常に早い地域。
そこで薫製ミイラは、
- 煙で細菌の繁殖を防ぐ
- 体内の水分をゆっくり蒸発させる
- 熱をかけすぎず、遺体の形を保つ
というメリットを持ち、熱帯地域の最適解とも言えます。
🌏 ミイラ文化の「意外な広がり」:日本の縄文文化ともつながる?
研究チームはこの伝統が、
東南アジア → 中国南部 → 日本の縄文地域 → オセアニア
といった広い範囲に影響していた可能性を指摘しています。
実際、縄文時代の一部遺跡にも、火を使った特殊な埋葬の痕跡があり、
火と煙を使った遺体処理が広域で共有されていたことを示唆しています。
これは、
人類が農耕や都市を持つ前から、高度な死者儀礼と保存技術を持っていた
という、大きな歴史観の転換につながります。
⚖️ 現代の視点:古代遺骨の扱いと法制度の課題
ミイラ研究には科学的価値だけでなく、倫理と先住民族の権利が深く関わります。
- アメリカでは「NAGPRA」という法律により、
博物館が保管してきた先住民遺骨を返還する義務があります - オーストラリアやニュージーランドでも、
先住民の遺骨や儀礼品の返還運動が進んでいます
今回の研究でも、地域の人々の文化的権利を尊重しつつ研究を進める姿勢が重要であると指摘されています。
🕊️ まとめ:ミイラは“技術”であり、“愛と記憶”の形でもあった
今回の研究から見えてくるのは、次のような事実です。
- 世界最古のミイラはエジプトではなく、東南アジア・中国南部で作られていた
- その方法は火と煙による“薫製”という独自の技術
- 祖先を身近に感じ、共に暮らすという精神文化が背景にあった
- この伝統は現代の民族文化ともつながっている
- ミイラ化は「死者を長く近くに置きたい」という人間共通の感情の表れ
ミイラは、1万年以上前の人々が抱いた「愛する人を忘れたくない」という想いの形でもあるのです。
📚 参考・出典(本文中へのリンクは省略)
- PNAS:東南アジア・中国南部における1万年以上前の薫製ミイラ化研究
- ScienceAlert:世界最古級ミイラの分析解説
- Live Science:薫製ミイラの考古学的背景
- チンチョロ文化・古代エジプトのミイラ研究資料
- ニューギニア・ダニ族の葬送儀礼に関する民族誌
- 東南アジア・オセアニアの葬送文化と文化伝播に関する研究
- 遺骨返還政策:NAGPRAおよびオーストラリアの先住民文化保護の公式文書
