中国には「グレートファイアウォール(GFW)」と呼ばれる世界最大級のネット検閲システムがあります。これは政府にとって不都合な情報や海外のサービスを遮断するもので、中国国内のインターネット環境を大きく制限しています。
上海出身で現在アメリカ・MITでコンピューターサイエンスを学ぶChengyuan Ma氏は、中国市民がどのように検閲に対抗してきたのか を、自身の経験を交えてまとめています。

インターネット黎明期と「予言的なメール」 💌
- 中国が初めてインターネットに接続したのは1987年。
- ドイツへ送信された最初のメールには「万里の長城を越えれば、世界の隅々まで行くことができます」と書かれていました。
この言葉は、のちに「グレートファイアウォール」という現実を象徴するような予言めいたものだったといえます。
1990年代半ばまでは検閲はほとんどなく、インターネット利用者も一部の富裕層や技術者に限られていました。

初期の検閲:DNSスプーフィングとブラックリスト 🛑
1998年頃から、GFWは DNSスプーフィング を導入。
特定のサイトへアクセスしようとすると、偽のIPアドレスが返される仕組みです。
市民の回避策
- 外国のDNSサーバーを利用
hostsファイルを編集し、正しいIPアドレスを直接書き込む
当時はまだ効果的で、2010年代初頭まで部分的に使えたといいます。
さらに政府は、ルーターや海底ケーブルの陸揚局に特殊なハードウェアを設置し、
「ブラックリスト化されたIPへの接続を検出すると強制的に切断(RSTパケット送信)」する方式も導入しました。

VPN普及と政府の対策 🔑
初期の頃はVPNやプロキシを使えば簡単に検閲を回避できました。
しかし2010年代に入ると政府はVPNを積極的にブロック。
- VPN Gate(筑波大学プロジェクト) が人気に
- 政治団体が運営する FreeGate や Wujie も利用者が多かった
ただし、これらのVPNは接続時に政治宣伝ページへ強制誘導するなどの「癖」もあったそうです。

GoAgentとその終焉 ⚙️
技術に詳しいユーザーは、Google App Engine を使った「GoAgent」で自前のプロキシを構築。
これにより、プライベートノードで検閲を回避できました。
しかし2014年後半、中国政府の圧力により閉鎖。市民は新たな方法を模索することになります。

Shadowsocksの登場 🕶️
VPNが封じられる中で現れたのが Shadowsocks。
- Socks5ベースで暗号化通信を実現
- トラフィックの特徴がつかみにくく、検閲回避に強力
ユーザーはさらに難読化技術を追加し、WeChatやSkypeの通信を装う手法まで考案しました。
オリジナルのリポジトリは削除されましたが、多数のフォークが生まれ、現在でも使われています。
V2RayとHTTPSの進化 🚀
2016年に登場した V2Ray は、検閲回避における「ゲームチェンジャー」となりました。
- JSONベースの柔軟なプロキシ設定
- 複数プロトコルの組み合わせで検出を回避
さらに、HTTPS暗号化の普及が追い風となり、検閲側がパケット内容を直接判別するのは不可能に。
ただし、長時間ニッチなHTTPS通信を続けると「不自然な動き」として検出される可能性もあります。
中国市民の「抵抗の知恵」 ✊
- DNS書き換えから始まり
- VPN → GoAgent → Shadowsocks → V2Ray → HTTPS暗号化と、手段は進化
- そのたびに政府は新たな対抗策を導入し、市民はさらに新しい技術で回避してきました
この「攻防の歴史」は、自由を求める一般市民の強い意志と技術力を示しています。
まとめ 📌
- 中国のグレートファイアウォールは世界最大級の検閲システム
- しかし市民は常に工夫を重ね、自由な情報アクセスを模索してきた
- 検閲と回避の攻防は今も続いており、技術の進化とともに形を変えています
👉 インドネシアなど他国の検閲状況とも関連しており、中国の経験は「自由を求める市民運動」の貴重な事例といえるでしょう。
