人類が古来より追い求めてきた「不老不死」。
そして現代では、テクノロジーと医療の進歩によってそれが現実に近づいているかのように語られています。
そんな中、「長寿産業(Longevity Industry)」と呼ばれる分野が急成長を遂げ、
世界中の億万長者や投資家たちが“不死”の夢に巨額の資金を注ぎ込んでいるのです。
しかし、専門家はこの動きに警鐘を鳴らしています。
表向きの「健康」や「若返り」の裏に、科学的根拠の乏しい商業主義と倫理的リスクが潜んでいるからです。
👉 原論文:A booming longevity industry wants to sell us ‘immortality’. There could be hidden costs

🧬長寿ビジネスが狙うのは「不老不死を買いたい人間の心理」
SNSには「寿命を延ばす」と謳うサプリメントや美容法があふれています。
ペプチド、機能性キノコパウダー、氷風呂、サウナ、凍結療法……。
こうした“若返り”コンテンツの背後には、死や老いを恐れる人々をターゲットにした巨大市場が存在しています。
オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学の研究者サミュエル・コーネル氏らは、
この流れを「恐怖と希望を利用したビジネス構造」だと分析しています。
💬 コーネル氏は次のように指摘します:
「長生きを願う人間の本能に訴えかけながら、科学的根拠のない商品を“エリート向けの健康投資”として売り込む手法が広がっている。」

🧠進化論的に見た「不老不死が存在しない理由」
そもそも、なぜ生物は“不死”を獲得できなかったのでしょうか?
進化の仕組みを見れば、その答えは明白です。
生物の進化は「生殖と適応を最大化する遺伝子」を優先してきました。
そのため、無限の寿命をもたらす遺伝子は淘汰の影響を受けにくく、進化上の利点が少なかったのです。
古代ギリシャ神話にも“不死の代償”が語られています。
不死を願ったティートーノスは永遠の命を得たものの、“不老”を願うことを忘れ、
終わりなき老いと苦痛に苦しむことになったという逸話は象徴的です。
🧩 人間の不死願望は普遍的ですが、その実現は“生物の理”に反しているのです。

🧪「長寿産業」は本当に命を延ばすのか?
近年の長寿産業には、ベンチャーキャピタルや製薬大手が相次いで参入。
巨額の資金が「アンチエイジング」「遺伝子治療」「若返り療法」などの名のもとに投下されています。
しかし、多くのサービスや製品は科学的エビデンスに欠けているのが現実です。
例えば「全身MRI」や「血液によるバイオエイジ測定」は健康投資として人気ですが、
健康増進効果や寿命延長効果を裏付けるデータはほとんどありません。
医学界では、むしろこれらが過剰診断・不安・高コスト化を招く危険性が指摘されています。

🧛♂️富裕層がハマる“永遠の若さ”プロジェクト
アメリカのベンチャー投資家ブライアン・ジョンソン氏はその代表例です。
彼は「決して死なない」という目標のもと、数百万ドル(数億円)を費やして徹底的なアンチエイジング実験を行っています。
- 厳格なカロリー制限
- 数百種類のサプリメント摂取
- 睡眠・運動の完全管理
- さらには自分の息子の血漿を輸血
💉 これらは“最先端の長寿療法”として注目を浴びていますが、
科学的な裏付けよりも「話題性」や「資金力」を背景にした自己実験のショー化が進んでいるのが実態です。

⚠️長寿ビジネスの本質:エビデンスよりも「利益」
コーネル氏らが最も懸念しているのは、**「科学よりも利益が優先されている」**という点。
長寿ビジネスは“医療の代替”を装いながら、実際には既存の医療インフラに依存しています。
血液検査・MRI・処方薬・臨床モニタリングなど、すべて病院や専門医の協力の上に成り立っています。
結果的に、富裕層のための実験的治療が、一般医療リソースを圧迫しているという批判もあります。
👩⚕️ 「命を延ばす」ための行為が、医療格差を広げている――
この矛盾こそ、長寿産業の最大の課題と言えるでしょう。
🧓老化を「病気」とみなす危うさ
“アンチエイジング文化”が生む年齢差別
長寿産業は、老化を「治療すべき病」として描き出します。
しかし、これは老いの自然な過程を否定し、年齢差別(エイジズム)を助長する危険性があります。
この「病気喧伝(ディジーズ・モンガリング)」によって、
社会全体が“老いること=失敗”という価値観に傾いてしまうのです。
その結果、本来注力すべき
✅ 公衆衛生サービス
✅ 高齢者支援
✅ 医療の公平アクセス
といった“実際に人々の生活を支える仕組み”への関心が薄れてしまうと警鐘を鳴らしています。
🌿結論:「不死」ではなく「健康的に生きる」ことこそ本質
コーネル氏らはこう強調します👇
「根拠のない長寿マーケティングは、私たちが本当に効果を知っている健康習慣――
定期的な運動、バランスの取れた食事、十分な睡眠、そして人とのつながり――
から私たちの注意をそらしてしまう。」
人類が目指すべきは**「死なないこと」ではなく「より良く生きること」**。
その道は派手なサプリや高額な治療ではなく、地道な生活習慣の中にあるのです。
📚 参考リンク

