自閉症スペクトラム症(ASD)の子どもに対し、アルツハイマー病治療薬「メマンチン(Memantine)」が社会的行動の改善をもたらす可能性が示されました。
マサチューセッツ総合病院とハーバード大学の共同研究チームが行った臨床試験では、一部のASDの子どもたちがコミュニケーション能力や社会的交流の向上を示したと報告されています。

🧩自閉症スペクトラム症(ASD)とは?
自閉症スペクトラム症(ASD)は、対人コミュニケーションや社会的相互作用に困難を抱える発達障害です。
その症状は個人差が大きく、遺伝的要因や環境的要因が複雑に関与しています。
従来の治療法では、根本的な改善が難しく、社会的スキルの向上を目指す薬剤治療の研究が世界的に進められています。

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💊アルツハイマー治療薬「メマンチン」とは?
メマンチンは、脳内のグルタミン酸受容体(NMDA受容体)を抑制する薬剤です。
ヨーロッパやアメリカ、日本でも承認されており、中度から重度のアルツハイマー病患者に使用されています。
グルタミン酸は神経伝達物質の一種で、過剰に放出されると神経細胞に毒性を及ぼすことがあります。
メマンチンはその濃度を安定化させ、神経変性の進行を抑制する働きを持ちます。
🧠ASDと「前帯状皮質前部」の関係
脳の中でも、前帯状皮質前部(anterior cingulate cortex)は社会的行動や感情の処理に関与しています。
近年の研究では、ASDの一部の人々において、この領域でグルタミン酸のバランスが崩れていることが報告されています。
この不均衡が、社会的な相互作用の困難やコミュニケーション障害と関係している可能性があります。

🧪マサチューセッツ総合病院の臨床試験
今回の臨床試験では、知的障害を持たない8〜17歳のASDの子ども33人を対象に、12週間にわたる投薬が実施されました。
実験群には1日20mgのメマンチンが投与され、対照群には偽薬が投与されました。
結果:
- メマンチン群は、対照群と比較して社会的行動やコミュニケーション能力が有意に改善。
- 特に、前帯状皮質前部におけるグルタミン酸濃度が高かった子どもほど強い改善効果を示しました。
- 保護者の報告でも、「他者との交流や関わり方が明らかに改善した」との回答が多く寄せられました。

⚖️過去の研究との違いと今後の課題
2017年の試験では、メマンチンはASDに対して顕著な効果を示さなかったとされています。
しかし今回の研究では、脳内のグルタミン酸濃度という新たな生物学的指標を取り入れることで、
「誰に効果があるのか」を特定できる可能性が浮かび上がりました。
研究チームは次のように述べています。
「メマンチンはASDのかなりの割合の患者に有効であり、
不必要な薬剤曝露を避けながら、治療成果を向上させる可能性がある。」
今後はより大規模な臨床試験によって、投薬対象や用量の最適化が求められます。
🌈まとめ:脳科学が拓くASD治療の新たな道
今回の研究は、「アルツハイマー治療薬が自閉症の社会的機能改善に寄与する可能性」を示した重要な第一歩です。
まだ全てのASD患者に当てはまるわけではありませんが、脳内化学物質のバランスを整える新しいアプローチとして注目されています。
科学が少しずつ、ASDの理解と支援の在り方を変えつつあるのです。

