注意欠如・多動症(ADHD)は、不注意や多動性、衝動性を特徴とする神経発達障害であり、成人になっても症状が続くことが多いとされています。そんな中、フィンランドで行われた大規模な調査 によって、成人がADHDと診断されると、抗うつ薬の使用量が減る傾向にあることが明らかになりました。
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👉 研究紹介記事(PsyPost)

なぜADHDが「抗うつ薬の使用」と関係するのか?🤔
ADHDを持つ成人は、集中力の欠如・感情コントロールの困難・課題遂行の難しさ など、長期的な生活上の問題を抱えています。こうした症状はうつ病や不安障害と誤診されることが多く、その結果、本来の原因がADHDであるにもかかわらず、抗うつ薬や抗不安薬を処方されるケース が少なくありません。
つまり、診断前の段階では「うつ症状」に見えるため抗うつ薬が投与されますが、ADHDが正しく診断され、治療が始まると症状の原因が改善され、抗うつ薬の使用量が減少していくのです。

調査の概要📊
研究を行ったのは、フィンランドの医薬品関連企業 Oriola の研究チーム。
- 対象期間:2010年〜2021年
- ADHD患者:約 6万6000人
- 比較対照群:約 25万6000人(年齢・性別・地域をマッチング)
- 調査内容:医薬品の処方データ、診断コード、保険記録などを分析
研究者のTuire Prami氏は次のように説明しています。
「成人ADHDの診断は遅れることが多く、診断前にはうつ病などと誤診されて別の治療を受ける傾向が強いのです」

主な研究結果📉✨
- 成人ADHD患者は診断前に抗うつ薬を服用している割合が高い
→ ADHDと診断された後、抗うつ薬の使用量は大幅に減少。 - 対照群(非ADHD)では同様の減少傾向は見られなかった
→ 抗うつ薬の減少はADHD診断と治療開始による効果だと考えられる。 - 小児ADHDでも類似の現象
- 診断前:抗生物質・抗炎症薬・ぜん息治療薬などが多く処方される傾向
- 診断後:これらの薬の使用が急激に減少
- 診断前には多様な薬剤が処方されていた
- 抗てんかん薬
- 抗精神病薬
- 睡眠薬・メラトニン
- 胃酸逆流症治療薬 など
これは、未診断のADHDによる精神的・身体的苦痛を緩和するため、多様な薬剤が使われていた ことを裏付けています。

この研究が示す意味💡
- ADHDの正しい診断が行われると、不要な薬剤の使用を減らせる
- 誤診によって「うつ病」「不安症」とされてきた人々の一部は、実際には未診断のADHDであった可能性がある
- 精神科・心療内科の臨床現場において、成人ADHDの見落としを減らすことが重要
Prami氏は次のように強調しています。
「ADHD診断は難しいですが、正しい診断によって他の薬剤使用を減らし、患者の生活の質を大幅に改善できるのです」
まとめ📝
- 成人ADHD患者は診断前に抗うつ薬を多く使用していたが、診断後は大きく減少
- 小児ADHDでも同様に、診断後に薬剤使用が大幅に減少
- ADHDを見逃すことは、不要な薬剤処方や生活の質低下につながる
- 正しい診断と治療が、精神的・身体的な負担軽減に直結する
