🧩 「有害な男らしさ」という言葉が抱える誤解
「有害な男らしさ」とは、支配性、攻撃性、女性蔑視、弱さを見せない態度など、本人や周囲に害を及ぼす可能性のある男性性を指す言葉です。しかし近年、この表現がSNSや日常会話で広く使われるようになったことで、「男性的であること自体が悪い」「すべての男性が有害だ」といった誤解も生まれています。そこでオークランド大学の研究チームは、約1万5000人の異性愛者男性を対象に、「有害さ」を感覚的なラベルではなく、複数の心理・社会的指標から測定できるのかを検証しました。

🔬 8つの指標で“問題になり得る男性性”を分析
研究では、ニュージーランドの大規模パネル調査「New Zealand Attitudes and Values Study」のデータを用い、男性性に関係する8つの指標を分析しました。重要なのは、「男らしさを大切にしているか」だけではなく、偏見、性差別、支配志向、自己愛、協調性の低さなどを組み合わせて見た点です。
📊 研究で使われた8つの指標
- 👤 男性であることをどれだけ重視しているか
- 🏳️🌈 性的少数者への偏見
- ⚠️ 女性に対する敵対的性差別
- 🎀 女性を保護対象として固定化する好意的性差別
- 🚫 DV防止への反対
- 🪞 自己愛傾向
- 🤝 協調性の低さ
- 🏛️ 社会的支配志向

🧠 分析で見えた5つのタイプ
統計解析の結果、男性たちは5つのプロフィールに分類されました。最も多かったのは、8つの指標が全体的に低い「Atoxic(有害性がほぼない)」グループで、全体の約35.4%。一方、最も強く問題傾向が見られた「Hostile Toxic(敵意型の有害)」は約3.2%にとどまりました。また、好意的性差別や性的少数者への偏見が高い「Benevolent Toxic(温情型の有害)」も約7.6%確認されています。つまり、研究結果は「男性の多くが有害」という単純な結論ではなく、“一部の組み合わせが有害性を高める”ことを示しています。

⚖️ 「男らしさ」そのものは有害ではなかった
この研究で特に重要なのは、「男性であることを重視する」こと自体は、有害性を強く予測しなかった点です。敵意型の有害グループにも男性性を重視する人はいましたが、他のグループでも同程度、あるいはそれ以上に男性性を大切にしている人がいました。つまり問題なのは、男らしさそのものではなく、それが女性蔑視、支配欲、暴力の正当化、性的少数者への偏見などと結びついた場合です。この点は、「有害な男らしさ」という言葉を使う際に最も注意すべきポイントです。
✅ 誤解しないためのポイント
- ❌ 男性性そのものが悪いわけではない
- ❌ 男性全員が有害という意味ではない
- ✅ 問題は、支配・偏見・暴力容認と結びつく男性性
- ✅ 有害性は単一の性格ではなく、複数要素の組み合わせ
- ✅ 支援や介入は“男性全体”ではなく、リスク要因に向けるべき
🌍 背景には孤立・格差・感情調整の困難も
研究では、敵意型の有害グループに入りやすい要因として、高年齢、独身、無職、宗教性、政治的保守性、経済的剥奪、教育水準の低さ、感情調整の困難さなどが挙げられました。Natureの取材でも、研究者は「金や地位のある強者像」ではなく、むしろ社会的に不利な立場の男性が多かった点を指摘しています。これは、有害な男性性を単に個人の性格や道徳の問題として片づけるのではなく、孤立、貧困、教育、メンタルヘルス、社会的疎外といった背景も含めて考える必要があることを示しています。
🧭 この研究が示す今後の向き合い方
今回の研究はニュージーランドの異性愛者男性を対象にしたものであり、他国や別の文化圏、性的少数者を含む集団で同じ結果が再現されるとは限りません。それでも大きな意義は、「有害な男らしさ」を感情的な批判語ではなく、測定可能な複数の要素に分解した点にあります。今後は、学校教育、DV予防、職場研修、メンタルヘルス支援などで、「男性性を否定する」のではなく、偏見や暴力容認、支配志向を減らし、健全な自尊心や感情表現を育てる方向へ議論を進めることが重要です。
📝 まとめ:「有害な男らしさ」は測れるが、雑に使うべき言葉ではない
オークランド大学の研究は、「有害な男らしさ」が完全に主観的な言葉ではなく、性差別、偏見、支配志向、自己愛、DV防止への反対などの指標を組み合わせることで、一定程度測定できる可能性を示しました。一方で、男性性そのものが有害なのではなく、特定の価値観や行動パターンと結びついたときに問題化することも明らかになっています。だからこそ必要なのは、男性を一括りに批判することではなく、どの要素が誰にどのような害をもたらすのかを丁寧に見極める姿勢です。
参考・出典
- Nature「Can ‘toxic masculinity’ be measured? Scientists try to quantify controversial term」
- ResearchGate「Are Men Toxic? A Person-Centered Investigation Into the Prevalence of Different Types of Masculinity in a Large Sample of New Zealand Men」
- New Jersey / Donga Science「Study finds hostile toxic masculinity is rare and linked to disadvantage」
- Psychology Today「Good News: A New Study Finds Most Men Are Not Toxic」
- PsyPost「Most men do not fit the profile of toxic masculinity, new study finds」
