地球上の酸素は、森林や植物だけでなく、海洋の微生物による光合成によっても生み出されています。その中でも、最も豊富で重要な存在が海洋性シアノバクテリアの一種である**プロクロロコッカス(Prochlorococcus)**です。
最新の研究により、この小さな微生物が海水温の上昇に驚くほど脆弱である可能性が示されました。もしその数が減少すれば、地球の酸素供給や食物連鎖に大きな影響を与える可能性があります。

プロクロロコッカスとは?🌍
- 地球で最も豊富な光合成生物
- 太陽光の届く海洋表層水の75%以上に分布
- 特に栄養の少ない熱帯海域で繁栄
- 食物連鎖の基盤であり、地球の酸素の約3分の1を供給
その小ささゆえに栄養をほとんど必要とせず、他の生物が生きにくい「青く澄んだ熱帯の沖合」で支配的な存在となっています。
ワシントン大学の海洋学者フランソワ・リバレ氏は、
「熱帯の沖合にはプロクロロコッカス以外ほとんど生物が存在しないため、海は鮮やかな青色をしているのです」
と語っています。

研究の概要 🔬
今回の研究は、研究室での培養実験ではなく、自然環境で生息するプロクロロコッカスを対象にしたもの。
- 13年間にわたり90回の航海調査を実施
- 約8000億個もの細胞を分析
- 特別設計のフローサイトメーターを使い、レーザーで細胞を検出し分裂速度を測定
その結果、プロクロロコッカスは摂氏19〜28度で最も活発に分裂することが分かりました。
しかし、海水温が30度を超えると細胞分裂が極端に低下。28度での分裂速度を100%とすると、30度超ではわずか3分の1にまで落ち込むのです。
リバレ氏は、
「プロクロロコッカスが“燃え尽きる”温度は、私たちが想定していたよりずっと低かった」
と述べています。
研究では、13年にわたって行われた90回もの調査航海で採取された、8000億個ものプロクロロコッカスと同サイズの細胞を分析しました。分析には、プロクロロコッカスのような小さな細胞を検出するために特別設計したフローサイトメーターが使用されたとのこと。

将来のシミュレーション 📉
研究チームは、21世紀末までのシナリオをシミュレーションしました。
- 中程度の温暖化シナリオ
- 熱帯地域で生産性が17%低下
- 地球全体で10%低下
- 深刻な温暖化シナリオ
- 熱帯地域で生産性が51%低下
- 地球全体で37%低下
つまり、海洋温暖化が進めば進むほど、地球の酸素供給源そのものが縮小していく可能性があるのです。

生態系への影響と今後の見通し 🌐
- プロクロロコッカスの分布は極地(北極・南極)へ拡大する可能性
- 絶滅はしない見込みだが、生息地の変化は避けられない
- 耐熱性のある別種(例:シネココッカス)が繁栄する可能性もあるが、生態系全体への影響は不透明
研究チームは、耐熱性株の存在が見落とされている可能性も指摘し、
「新しい耐熱性株が発見されれば、それはこの重要な微生物にとって希望となるでしょう」
と強調しました。
まとめ ✅
- 地球の酸素の約3分の1を担うプロクロロコッカスが海水温の上昇に弱いことが判明
- 30℃以上で細胞分裂が激減し、地球規模での酸素供給に影響が及ぶ可能性
- 将来的に極地へ分布が移行し、熱帯海域での存在感は縮小する可能性
- 耐熱性株の発見や他の微生物の役割に注目が集まる
小さな微生物の変化が、地球規模の大気や生態系に影響を及ぼす。今回の研究は、気候変動がいかに私たちの呼吸と直結しているかを示す警鐘ともいえるでしょう。
