中国の高級ホテルに異変——北京「北苑大酒店」まで屋台出店、デフレ圧力の影が濃くなる

中国の高級ホテルに異変——北京「北苑大酒店」まで屋台出店、デフレ圧力の影が濃くなる #news
会議・宴会・出張需要の冷え込みで、五つ星を含む高級ホテルが“屋台”に活路を求め始めた。北京の高級ホテル北苑大酒店では、スタッフが毎晩屋台を設置し、できたての料理を手頃な価格で販売。「値下げすれば客が戻る」時代ではない——現場の声は切実だ。

会議・宴会・出張需要の冷え込みで、五つ星を含む高級ホテルが“屋台”に活路を求め始めた。北京の高級ホテル北苑大酒店では、スタッフが毎晩屋台を設置し、できたての料理を手頃な価格で販売。「値下げすれば客が戻る」時代ではない——現場の声は切実だ。

デフレ化する中国...高級ホテルは外資もこぞって新戦略「屋台販売」で稼ぐ

ハイライト(3分で要点)✨

  • 屋台出店へ転換:北京の北苑大酒店をはじめ、中国全土の少なくとも14の高級ホテルが直近数週間で屋台販売に参入。
  • 需要の細りが直撃:企業の出張・宴会予算削減、公務員の倹約徹底・アルコール制限で、ホテル宴会・個室稼働が急落。
  • 価格と数量のシフト:看板メニューのクリスピーロースト(ハト1羽)はレストラン58元→屋台38元へ。“薄利多売”で販売量が80羽→約130羽/日に増加。
  • デフレ懸念の台頭3元(約62円)の朝食やスーパーの大幅タイムセールも拡大。高額消費がしぼみ、割安・新規性へ嗜好が移行。
  • 業界の収益悪化北京の宿泊業界の利益は上期に前年比▲92.9%。ケータリング売上も伸び鈍化(6月+0.9%、5月+5.9%)。

何が起きているのか:五つ星ホテルが「屋台」を選ぶ理由

北苑大酒店のセールスディレクター、アンウェン・シュー氏はこう語る。

「いまは値下げしても客が来ない。そもそも来場がない。新たな収入源を見つけるしかない」

背景には次の3点が重なる。

  1. 企業需要の鈍化:出張・会議・宴会の予算縮小で、宴会予約・個室稼働が急落。一部ホテルでは**個室稼働率100%→約33%**まで低下。
  2. 倹約と規律の強化:公務員・党員の大人数会食やアルコール消費に制限——高級宴会の中核顧客が減速。
  3. 消費者心理の変化高額消費を回避し、低価格・カジュアルで“話題になる”体験へ。屋台は安い・楽しい・わかりやすいの三拍子。

現場の数字:屋台の「量」と「粗利」

  • 看板料理の価格差:ハトのクリスピーロースト
     レストラン 58元 → 屋台 38元(約780円)
  • 販売量の伸び:屋台導入後、80羽/日 → 約130羽/日
  • 粗利益率:屋台は**10~15%**とケータリング平均を上回る一方、館内事業の落ち込みは埋めきれず
  • 客単価:レストランの客単価は半減し100~150元へ。

ウェイ・ジェン氏(北京維景国際大酒店)
飲食は相当な重圧。多くのホテルが屋台販売で増収を狙っている」


デフレ圧力の兆候:価格は下がるが「客は戻らない」🧊

  • 3元(約62円)の朝食の出現、スーパーのタイムセール常態化は、慢性的な需要不足を示唆。
  • ケータリング売上:6月+0.9%(5月+5.9%から大きく減速)。
  • 宿泊業の利益:北京の上期は**前年比▲92.9%**の急落。

モナシュ大学・ハー・リン・シー教授(経済学)

「五つ星を含む高級飲食は生き残り戦略の再設計が不可避。現状は中国全体が大きなデフレリスクに直面している表れ」


ブランドより生存が先:外資系も屋台へ

  • JWマリオット(重慶)、**ヒルトン(武漢)**など外資系も参入。
  • リバー・アンド・ホリデー・ホテル(重慶)は駐車場での屋台で、日次収入が数千元 → 6万元へ跳ね上がり。
  • 同ホテル・シェン氏 「今年はどの業界も厳しい生き残りが最優先で、なりふりは構っていられない」

消費者の声:「高級ホテルに泊まる回数、確実に減った」

北苑大酒店近隣の金融マン:

「ホテルの取り組みは理解できる。自分も高級ホテルの利用は減った収入が追いつかないのが実情だ」

コンサル創業者・ヤリン・ジャン氏は、今の嗜好をこう要約する。

「割安さ」と「目新しさ」は求めるが、高額消費には二の足。“高級の再定義”が進む


業界・ホテル向け示唆(実務メモ)📌

  • 屋台=在庫回転&認知投資:低単価・高回転で現金創出し、SNS拡散で新規接点を獲得。
  • 価格帯の梯子を用意:**屋台(集客)→カジュアルダイニング(送客)→宴会(回復期の受け皿)**の導線設計。
  • 昼夜二毛作朝食・ランチの3元圧を逆手に、モーニング屋台・テイクアウトなど日中売上の底上げを。
  • 固定費の流動化:駐車場・ロビー前など不稼働スペースを売り場化。キッチンはセントラル化でロス削減。
  • ブランドの守り方:屋台の**“限定・監修・地域名物”**の打ち出しで、廉価=廉価ブランド化を避ける。

まとめ:高級のかたちが変わる——「生き残るための柔らかい発想」を

高級ホテルはいま、格式と生存の二律背反に直面している。だが北京や重慶の事例は、“高級=フルサービス”の固定観念を捨て、生活圏に入り込むことで、新しい顧客の物語を紡げることを示した。
デフレ心理に勝つのは“納得感”。価格、体験、ストーリーが揃ったとき、屋台はブランドの敵ではなく、味方になる。

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