アメリカの連邦取引委員会(FTC)は、契約は簡単でも解約は複雑な有料サブスクリプションの現状を是正するため、「Click to Cancel(クリックで解約)」ルールの義務化を推進しています。
2025年7月末、民主党議員らがこのルールを復活させるための法案を正式に提出しました。もし成立すれば、契約と同じくらい簡単に、わずか1クリックで解約できる時代が訪れるかもしれません。

📌 なぜ「Click to Cancel」が必要なのか?
多くの有料サブスクリプションでは、契約はオンラインで数秒で完了できる一方、解約には複雑な手順が必要です。
中にはチャットや電話でのやり取りを必須としたり、複数ページを経由しなければ解約できないケースもあります。こうした手法は、消費者の解約意欲を削ぎ、契約を継続させるための戦略とされています。
FTCはこれを**「不公正な商慣行」**とし、「解約は契約と同じくらい簡単であるべき」という立場を明確にしています。

⚖️ 法案提出の経緯と背景
- 2024年8月頃:バイデン政権下のFTCがClick to Cancel規則案を公表
- 2025年5月:一部条項が施行予定も、業界団体の反発で2カ月延期
- 2025年7月:連邦控訴裁判所が「手続き上の欠陥」を理由に規則を無効化
無効化の最大の理由は、FTCが本来必要な**「予備的規制分析」**を行わなかったこと。規則の経済的影響が1億ドルを超えると判断され、本来は詳細なコスト・便益分析が必要だったのに実施されなかったと指摘されました。
さらに政権交代も影響しました。トランプ大統領就任後、FTCの民主党員2名が解任され、2025年7月時点では共和党員のみで構成されており、規則推進の政治的後押しが失われたのです。

🏛️ 新法案の内容とポイント
2025年7月30日、民主党議員らが提出した新法案は、FTC規則を引き継ぐ形で次の内容を含みます。
- 1クリックで解約可能な仕組みの提供義務
- 解約申請後の即時課金停止
- 自動更新前に明確で直接的な同意を取得する義務
- 違反時は1件あたり最大5万ドル(約740万円)の罰金
これにより、企業は**「登録は簡単だが解約は複雑」**という商法を継続できなくなります。

FTCのClick-to-Cancel規則で最も問題視された点として、FTCが「予備的規制分析」と呼ばれる詳細なコストと便益に関する分析を実施しなかったことが挙げられます。FTCは当初、規則を改正する影響は分析と提案が義務付けられる1億ドル(約145億円)に満たないと判断し、分析は不要だと考えていましたが、その後の行政法判事による審理で「実際には経済的影響が1億ドルを超える」との結論が出されました。そのため、裁判所は「単なる形式的なミスではなく、関係者が実質的な不利益を被った」と認定し、Click-to-Cancel規則の無効を判じています。また、Click-to-Cancel規則の無効には、政権の交代が関係している可能性が考えられていました。規則を定めた時のFTCはバイデン政権下で、賛成票を投じた3名は民主党員、反対票を投じた2名は共和党員でした。しかし、ドナルド・トランプ大統領は就任後に民主党員2人をFTCから解任しており、これによりFTCのメンバーは2025年7月時点で共和党員のみとなっています。そこで民主党議員らは2025年7月30日に、Click-to-Cancel規則を復活させる法案を提出しました。この法律はFTCの主張を引き継いだ形となり、企業に対し「サブスクリプションをキャンセルし、課金を即時停止するためのシンプルで直接的な仕組みを提供する」という内容のほか、自動更新の登録前に明確かつ直接的な同意を得ることも義務付けています。

🗣️ 議員たちのコメント
- クリス・デルジオ下院議員(民主党) 「サブスクリプションは、アメリカ企業が人々を困惑させ、お金を奪う新たな手段になっている。解約は登録と同じくらい簡単でなければならない。」
- ルーベン・ガジェゴ上院議員(民主党) 「多くの企業が曖昧な細則や複雑な手続きで、同意していない料金を請求し続けている。顧客が諦めるのを期待しているのだ。」
📊 法案成立の見通し
現時点で法案に賛成しているのは民主党のみで、共和党の支持は不透明です。
しかし専門家は、この規則は**「今年議会で最も支持を集めやすい法案の一つ」**になる可能性があると指摘しています。民主党は国民へのアピールを強化し、超党派での合意形成を目指す見通しです。
💡 消費者への影響
もしこの法案が可決されれば、消費者は次のような恩恵を受けます。
- 数クリックではなくワンクリックで解約できる
- 解約後は即座に課金が止まるため、不要な請求の防止
- 契約更新時の透明性向上
これにより、長年問題視されてきた**「サブスクの解約のしづらさ」**が大幅に改善されると期待されます。
まとめ:契約の自由と解約の自由は対等であるべき 🗝️
「Click to Cancel」は単なる技術的義務ではなく、消費者の権利を守るための仕組みです。
契約が容易であるなら、解約も同じくらい容易でなければならない。この原則が法律として確立されれば、サブスクリプション業界の在り方が大きく変わる可能性があります。
今後の議会審議の行方は不透明ですが、米国の動きは世界のサブスク業界にも影響を与えるでしょう。
日本でも同様の議論が進む可能性があるため、動向から目を離せません。