2025年4月9日、ドナルド・トランプ大統領は、開始したばかりの「相互関税(reciprocal tariffs)」を90日間一時停止すると突然発表しました。
「なぜ今?」という疑問の声が上がる中、実はこの決定には、**深刻な経済的ダメージを避けるための“戦術的撤退”**という見方が浮上しています。

📉関税がアメリカ経済にもたらす「予測外の痛み」
ビクトリア大学(オーストラリア)の政策研究センター副所長ロバート・ワシック氏と、ジェームズ・ギーゼケ教授は、世界経済モデルを用いて、トランプ政権の関税政策がもたらすマクロ経済への影響をシミュレーションしました。
その結果、アメリカ経済にとっては以下のような深刻な影響が予想されたのです。
🚨関税を停止しなかった場合の想定ダメージ(2025年)
- 実質消費:2.4%減少
- 実質GDP:2.6%減少
- 雇用:2.7%減少
- 実質投資:6.6%縮小
ワシック氏らはこの結果について、
「これはささいな損失ではありません。家計の購買力の低下、物価上昇、雇用喪失など、一般市民の生活に重大な影響を与える」と警告しました。
仮にこのまま突き進んでいれば、失業率が急上昇し、アメリカ経済は長期的なダメージを負っていた可能性が高いのです。

📊シミュレーションが示した「関税停止」の合理性
ワシック氏らの試算によると、関税を一時停止したシナリオでは、被害が明らかに緩和されることが判明しました。
また、アメリカの株式市場では、大手企業の株価が急落し、金融市場も不安定化。
政府内部でもこうした影響予測を共有していた可能性があり、最終的に「持続不可能な政策」として関税停止に踏み切ったと専門家は見ています。
⚠️すべての関税が停止されたわけではない
注意すべきなのは、今回の発表が全面停止ではないことです。
📌関税停止の対象・対象外の国
- 停止対象:報復関税を行っていない約70カ国
- 残る関税:
- 一律10%の相互関税 → 継続中
- 中国:125%の高関税(報復関税を発動したため)
- カナダ・メキシコ:25%の税率 → 維持
つまり、中国のように大規模な報復関税を実施した国には、引き続き厳しい措置が取られています。
🌍報復関税を取らなかった国への“経済的ご褒美”?
面白い傾向として、**報復関税を行わなかった国(例:オーストラリア・日本・韓国)**には、むしろ経済的メリットが生じるケースがあるというのです。
✅その理由は?
- 中国やEUの輸出業者が、アメリカ市場を避けて自由市場に商品を流す → 「貿易転換効果」
- アメリカ・中国での資本需要低下 → 世界的な金利低下 → 他国への投資を促進
オーストラリアのシミュレーションデータを見ると、投資やGDPの面でむしろプラスの影響が表れていることがわかります。
🧭まとめ:「一時撤退」で終わるのか、それとも……
今回の一時停止は、あくまで戦略的な修正にすぎないとする見方が有力です。
ワシック氏らは以下のように結論づけています。
「関税政策はトランプ政権の経済政策の中核にあります。今回の一時停止は理念の転換ではなく、戦術的な一時撤退です。」
また、同盟国や中立国への配慮や、中国への強硬姿勢を維持することによって、外交的にもバランスを取ろうとしている可能性があります。
🕰️90日後、再び「痛み」が始まるのか?
今後の焦点は、この一時停止が恒久化されるのか、90日後に再開されるのか。
ワシック氏らは次のように警鐘を鳴らしています。
「最も深刻な痛みは、今のところ回避されたにすぎません。90日後の展開が未来を左右します。」