過酷なマラソンを走り抜くと、なんと脳が“自分の組織”を使ってエネルギーをまかなうことが最新の研究で明らかになりました。しかも、その現象は一時的で、時間が経てば元に戻るとのこと。今回の研究により、脳の「ミエリン」がエネルギー源として利用される可能性が示され、神経や脳の健康との関係にも新たな視点が生まれています。

🧪脳は極限状態で「自分を燃やす」
スペインの研究チームが発表したこの研究は、マラソンによる極度のエネルギー消費が脳にどのような影響を与えるかを調べたものです。彼らは、フルマラソン(約42km)を完走したベテランランナー10名の脳をMRIでスキャンし、マラソン前後の脳内変化を分析しました。
その結果、脳の白質部分にある「ミエリン」の量が著しく減少していたことが明らかに。ミエリンとは、神経細胞の軸索(神経信号の通り道)を包む脂質が豊富な組織で、電気信号の伝達をスムーズにする絶縁体の役割を果たしています。
🧬 ミエリンが失われる=脳の「電気ケーブルの被膜」が一時的に薄くなる
というイメージです。

📉マラソン直後はミエリンが急減、でも…
MRI画像によると、ミエリンは主に以下の脳領域で大幅に減少しました:
- 🧠 運動機能
- 🎯 感覚統合
- 😊 感情制御
しかしこの変化は可逆的(元に戻る)なものであり、2週間後にはかなりの量が回復。さらに2カ月以内にはほぼ完全に元通りになっていたとのことです。

📊 ミエリン含有量の回復過程
- マラソン前:正常
- 2日後:急激に減少
- 2週間後:回復傾向
- 2カ月後:ほぼ完全回復

また、以下のグラフはMWFをマラソン前(緑色)、マラソン後(赤色)、マラソンから2カ月後(青)とで比較したものです。12ある白質の領域のすべてでマラソン後にミエリンが減少し、それから2カ月後までにほぼ完全に回復していることがわかります。

🧠脳の“燃料タンク”としてのミエリン?新概念「代謝性ミエリン可塑性」
これまで、脳がエネルギー不足に陥っても脂肪を燃やすことは少ないと考えられていましたが、今回の研究はその常識を覆します。研究チームはこの現象を「代謝性ミエリン可塑性(Metabolic Myelin Plasticity)」と呼び、ミエリンが一種のエネルギー貯蔵庫として機能している可能性を提唱しています。
実際、マウス実験でも、脳内の糖分が枯渇するとミエリンの脂質が利用される傾向が見られたそうです。
⚠️神経変性疾患との関係も?今後の課題
興味深いのは、ミエリン減少に伴って、マラソン後に反応速度の低下や記憶力の一時的な低下も観察された点。これはエネルギー源としてミエリンが使われた代償と考えられます。
この現象は健康なランナーでは回復しますが、**神経変性疾患(例:多発性硬化症)**のリスクがある人にとっては、大きな影響を及ぼす可能性もあるため、さらなる研究が必要とされています。
🏁まとめ:マラソンは脳にとって“試練”でもあり“再生”でもある
- マラソンなどの極限運動は、脳のエネルギー源としてミエリンを消費する可能性がある
- 脳は一時的に自分自身を“燃料”として使い、生き延びようとする
- 減少したミエリンは、2カ月以内に自然回復する
- 今後は、神経疾患との関連や安全な運動のガイドライン策定に向けた研究が期待される
🧠運動の影響は筋肉や心肺機能だけでなく、「脳」にまで及びます。健康のためのマラソンも、脳と相談しながら走る時代が来ているのかもしれません。
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